王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました

「兄上にとっても大事な人だったのは存じています。俺に任せてください。必ずや彼女を幸せにしてみせます」

「……そうですわ。いつまでもアイザック様が無実の罪で捕まっているなど、耐えられませんもの。どうか、落ち着いた幸せを探してくださいませ」

クロエは、健気な言動をして、切なげな視線をアイザックに送り続ける。
どうやら彼に恋をしている演技をしているようだ。

(ここは乗っかるべきなのかな。しかしなんだか気持ちが悪いな。……普段は敵を見るような目つきで睨まれるのに……)

「ということで、兄上の軟禁はこれで終了です。警備兵ももう退出しますから、まずはゆっくりお休みください」

「待て、コンラッド。ひとつ聞くが、アンスバッハ侯爵は何かおっしゃっているのか?」

「伯父上ですか? なぜ? 今回の話、決定されたのは父上ですよ」

「侯爵が口を出さないわけはないだろう」

「伯父上はどうあっても王にはなりえないのです。これからは私を重用しないわけにはいかないのですよ」

「ああ、……そういうことか」

好きなことばかりやっている愚弟だと思っていたが、意外にも頭は悪くないのだろうか。
彼はこの状況で、自分の価値に気が付いたのだ。

ナサニエル王とうまくいっていないアンスバッハ侯爵が利権を握るには、バイロンかコンラッドを王に立てるしかない。だが、バイロンは死んでしまった。とすれば、侯爵はコンラッドの機嫌を損ねるわけにはいかないのだ。
もちろん、コンラッドにとっても、侯爵は頼るべき親族であるはずだ。彼に協力してもらわなければ、能力的な意味でコンラッドが王として君臨することなどできない。
そこは持ちつ持たれつのはずだが、コンラッドは自分がのちに苦労することまで考えが及んでいないのだろう。

「では失礼します」

コンラッドとクロエが揃って部屋を出ると、本当に誰もいなくなった。
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