王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「解放されたとカイラ様のもとにも連絡が入って、飛んできました。ご無事でよかったです、ザック様」
「ああ。……だが、これは負けての解放だ。俺は兄上を殺害していない。輝安鉱はすべて警備隊に渡してあるのだから、事故など起こるはずがない」
「ザック様」
「……なのに、勝手に処遇を決めつけられた」
涙で潤んでいたロザリーの瞳が、驚いたように見開かれる。
こわばった表情に、ザックは歯噛みする。
「ザック様。……どうしたんですか」
「俺は臣籍降下され、グリゼリン辺境伯位を得る。すなわち、第一線からの追放だ。もう君を守ることもできない」
ひどく、ずたずたに傷つけられた気分だった。
解放されたというのに、爽快感はひとつもない。未来をもぎ取られて、絶望しかなかった。
同時に、ザックはこれまで、ロザリーとの未来に生きる希望を見出していたのだと気づいた。
「俺にはもう、君にあげられるものがない」
ロザリーの顔が見れなくて、うつむいたままザックは言った。
小刻みに震えながら伸ばされる手が見えたが、ザックは自分からすっと身をよけた。
「ザック様?」
「君を幸せにできないのに、連れていくわけにいかない」
王子という立場に、執着があったわけではない。だが、ロザリーと出会ったのは、王子という立場があったからだ。
今後没落すると決まっている人生に、彼女を巻き込むわけにはいかない。
なにより、無罪とはいえ自分のミスが兄を殺したことになっているのが、一番引っかかっている。
彼はロザリーを罪人の妻にするのが、一番嫌なのだ。