王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「……何言っているんですか」
ロザリーから返ってきたのは、いつも通りの声だった。
ゆっくり顔を上げると、彼女がいつもの笑顔で立っている。そこには軽蔑の色も、憐みの色もない。
涙目の瞳で、挑むようにザックを見上げてくる。
「私、守ってもらわないと生きていけないほど、弱くないです。宿屋で働くことだってできたんですよ。どんな仕事だって、どんな生活だってできます。それだけが理由で私を突き放すというなら、こっちにも考えがありますよっ」
ロザリーは自らの首に手を回し、ペンダントをひとつ、取り出した。
よくよく見ると、同じような形のものが彼女の首にはもうひとつついている。
「これ、恋人同士のお守りなんですって。ペンダントトップをくっつけると四葉のクローバーになるんです。大切な人を守り、ふたりがひとつである証だってお店の人が教えてくれました。……私、これをザック様に渡したくて、散財しちゃいました」
突き出すように出された右手。拳からチェーンが伸び、揺れているペンダント。
まるで催眠にかけられているみたいに、ザックの目は揺れるペンダントトップにくぎ付けになる。
「ロザリー」
「これを受け取ってください。私からのプロポーズです、ザック様。私はあなたがあなたでさえいてくれれば、どんな身分だろうと、……罪人だって構わない。どんな汚名だって怖くありません。むしろ今だからこそ、私はザック様と一緒にいて、あなたを守りたいんです」
決然と言い放ったロザリーの姿が、ザックの目には歪んで見えた。
軟禁中、気が狂いそうになりながらも正気を保てたのに。涙ひとつ出すことなどなかったのに。
どうしてこんな小さな女の子に泣かされているのか、ザックはおかしくなってくる。