王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「参るな。……君はどうしてそうまっすぐなんだ。俺といたって苦労するだけなのに」
「欲しいものが決まっているからです。手に入れるための苦労は必要な苦労でしょう? それに、辺境地に行くなら、この嗅覚を生かして、なにか新しいことを初めてみるのもいいじゃないですか!」
明るく言われて、ザックのもともと弱い意地はあっさりと陥落する。
彼女を引き寄せ、ギュッと抱きしめる。
「ごめん、ロザリー。君を幸せにしたいのに、いつもうまくいかない。俺は……」
側にいてくれるだけで、君に幸せをもらっているのに、と耳もとで囁いた。するとロザリーが手を伸ばしてきて腰に抱き着いてきた。
「ずっと会いたかったです」
「俺もだ」
一緒に苦労することを、笑顔で受け止めてくれる女性など、そうはいない。
ザックも心の底から誓う。大切にする。絶対に離したくない。
彼女が差し出したペンダントを自分の首に着けてみせると、ロザリーがはにかんで笑った。
(かわいい。……かわいすぎる)
無意識に、頬を掴んでひきよせる。
「え、へ? ザック様?」
ロザリーが戸惑った声が聞こえる。それでも動きを止める理由にはならない。
柔らかい唇に触れる。触るところすべてが柔らかく、不埒な考えが頭を支配していく。
「ん……」
普段の彼女からは想像もできないほど甘い声に、理性が飛びそうになった時、胸のあたりで必死に抵抗する手の力を感じた。
(……弱い。これじゃあ全然抵抗されてる気がしない)
思わずクスリと笑い、さらに腕に力を籠めようとした瞬間、別の人間の声が聞こえ、ふたりは慌てて離れた。