王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「とりあえず良かったわ。無事で……」
「ですが、母上にはきっと苦労をかけます。申し訳ありません」
継承権を失ったザックの立場は以前よりぐっと低くなる。それは母親であるカイラにも重くのしかかってくるのだ。せっかく城に戻っきた母が、また居心地の悪い想いをするのかと思うと、ザックは気が重い。
「私は大丈夫よ。もう分かったもの。ここにいるのは、私を嫌う人ばかりではないってこと。ロザリーさんもいてくれるから平気よ」
さらりと言ったカイラに、ザックは口をはさんだ。
「それなんですが、もう継承権が無いのなら、俺はロザリーもグリゼリン領に連れていきたいと思っています」
ロザリーはどきりとして彼を見つめたが、カイラは苦笑して首を横に振った。
「……それはまだ駄目よ。伯爵位を継承しても、領地を整えたりとやることがあるでしょう。いきなりロザリーさんを連れて行って、荒れた土地での暮らしをさせようというの? この子はまだ十六歳です。あと二年くらいは自分でがんばりなさいな」
「そんな!」
相変わらず、変なところは手厳しい。
ザックは目の前が真っ暗になりながらも、この状況下で笑えるようになった母親を少しばかり頼もしく感じた。
「それに、私にもまだ味方が必要だわ。もう少し、この子を貸していてちょうだい。お願いよ」
そう言われてしまっては、ザックも強くは出れなかった。
たしかに慣れぬ土地で、しかも暮らしも安定していないのだ。ザックとしても大手を振って彼女を迎える準備ができているわけではない。