王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
とはいえ、新たに何か食べるにはお腹がいっぱいだし、今日の主役であるザックは、彼を解放を祝う人々に囲まれているので邪魔はできない。
(レイモンドさんの様子を見に行こうかな)
レイモンドに会うのも久しぶりだ。クリスが元気でいるのか気になるし、料理もあらかた出きったようだから、少しは余裕も出てきただろう。
ライザに少し抜ける旨を伝えて、ロザリーは厨房へと向かった。
階段を下り、廊下の角を曲がろうとした時に聞こえた話し声に、足が止まる。
そこにいたのはクロエとアンスバッハ侯爵だ。ロザリーはそっと身を隠し、様子をうかがう。
「君はなかなか賢い女性のようだ」
「お褒め頂き光栄ですわ」
恭しく、クロエが頭を下げる。表情までは見えないが、ふたりの会話する声は和やかだ。
「その賢さが御父上にもあればいいのだけどね。彼は正義に固執する。その精神は尊いが国を動かすのには少々邪魔だ」
「……そうですわね」
イートン伯爵をけなすような声に、素直に頷いたことに対して、ロザリーは不思議な気がした。誰に対しても強気を崩さないクロエにしては意外だ。
「あのコンラッドにはもったいないくらいの女性だな。私は君を評価している。欲しいものがあれば何でも言ってくれ」
侯爵から手が差しだされた。クロエも握手に応じる。
「ありがとうございます。お父様の身の安全さえ保障していただければ、私は十分ですわ」
微笑みあう二人。クロエは味方だと分かっていてもなお、胸はざわつく。