王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました


厨房は大方の料理を作り終え、片付けに入っていた。
城の厨房を借りることになったレイモンドは、有名シェフたちの嫉妬深いまなざしのなか、神経をすり減らしていた。いくらイートン伯爵が直々に頼みに来たとはいえ、自分たちの仕事場を名も知られていないような平民に貸し出すのはさぞかし嫌だったのだろう。
それでも、手伝いに入ってくれた下働きたちは、「すっごい手際いいですね」などと褒めてはくれるが、いつも以上にレイモンドは疲労していた。

「レイモンドさん!」

呼ばれて、振り返るとふわふわ髪の令嬢が変わらない癒し系の笑顔でそこにいた。

「ロザリー!」

知った顔を見た安堵と、犬のリルを思い出させる柔らかい空気に、思い切り笑顔になってしまった。
二人の仲を勘違いした厨房のスタッフは、ひゅうと冷やかすような口笛を吹く。

「……いや、ロザリー様、と呼んだ方がいいのかな。どうだ? 料理は」

「とってもおいしいですっ! 皆さんもとても喜んでいましたよ。……ってそれはいいんですけど。ちょっと」

手招きしてレイモンドを呼び出し、先ほど嗅いだにおいの話をする。

「じゃあ、オードリーはアンスバッハ侯爵邸にいるのか?」

「決めつけることはできませんが、侯爵様と近しい位置にはいるんじゃないでしょうか。後でザック様にも確認してみますね」

「ああ、頼む」

思いつめた様子のレイモンドが心配になりながらも、ロザリーは気になっていることを聞いてみる。
< 77 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop