王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
時々手を止めながらも、ほうとため息をつきながらドレスを検分していくクロエを、マデリンは得意気に見やった。
「どう? 気に入ったデザインはあって? あなたはどんなのが好みなのかしら」
「どれも素敵です。マデリン様の仕立て師はセンスがございますね」
「ええ。腕は確かな仕立て師よ。私が王妃になってからのドレスはみんな彼に作ってもらっているの」
「お呼びですか?」
衝立の奥にいた仕立て師が、ひょこりと現れ、うやうやしく礼をする。
「アーロ、こちら、コンラッドの婚約者よ。クロエ様というの。今後は彼女のドレスも仕立てていただくわ」
「アーロ・ワイルドと申します。お見知りおきを、クロエ様」
「初めまして。よろしくお願いいたしますわ」
クロエは改めて男を観察する。
年の頃は四十代後半くらいだろうか。面長で青の瞳が綺麗だ。うねりのある髪は栗色で、クロエは一瞬既視感に襲われる。
(……どこかで見たことがある?)
しかし、考え直しても思い当たらない。
「アーロ、次の夜会にこの子も連れていきたいの。夜会向けのドレスを作ってくれる? 私のものと部分的にお揃いにしてもらえないかしら」
「お揃いですか。親子のようで素敵じゃないですか。……ではまずデザイン画からお好みのものを選んでいただきましょう。こちらへどうぞ」
膨大な量のデザイン画があるが、これといったものに出会えない。
国のファッションリーダーでもある王妃が懇意にしている仕立て師なのだから人気はあるのだろうが、クロエの趣味とは合わないのだ。
面倒になったクロエは、「私はあまりセンスが無くて。……アーロ様はどれが合うと思います?」とやる気がないときの奥の手を使う。
「そうですね……」
ぺらり、と画帳をめくる彼の横顔を見て、クロエはハッとした。
癖のある栗色の髪から覗く、やや傲慢さを感じさせる瞳。
彼が似ているのは、コンラッドだった。