王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました

「カイラ様だって、危険があるのを承知でお城に戻られるんですよね。私も同じです。ザック様の助けになりたくて、私はイートン伯領からここまで来ました。今更、怖気づくことなどありません」

「でも……」

まだ迷いを見せるカイラを、怯むことなく見つめる。ここまでにだっていろいろあった。そのひとつひとつを超えていく間に、どんなことでも受け止め、超えていく覚悟はできている。

「カイラ様、私は今だからこそ、すぐにでも城に行きたいんです。ザック様だって、身に覚えのない容疑にきっと不安になっているでしょう。だからこそ会いたい。少しでも元気づけてあげたいんです。会えなくても、せめて近くにいたいんです。……だから、私も連れて行ってください」

「それで、あなたの人生が台無しになったら?」

カイラはまだ、心配そうだ。

「台無しになんてなりませんよ。元々、私は田舎の男爵令嬢です。こんな冒険も恋も、普通だったらするはずのなかったことです。でもザック様に会えて、ここまでこれた。もう十分、幸せな人生です。こんな途中で、諦めるなんて、もったいないことできません!」

「……まあ」

カイラの瞳が、うっすらと潤んだ。そしてロザリーをギュッと抱きしめる。

「ありがとう。あなたの気持ちは本当にうれしいわ。私だって、あなたがいてくれたら心強いもの。……でも、後見人であるイートン伯爵の意見も聞かないわけにはいかないわ。あなた、明日は伯爵邸に呼ばれているのでしょう? 話をしてきてほしいの。伯爵が反対するようなら、あなたを連れては行かない。いいわね?」

「……はい」

ロザリーとしては、今は少しでもザックの傍に行きたい。離れていると不安は増幅するばかりだ。
だがカイラは意外と頑固で、そうと決めたらてこでも動かないところがある。
これはイートン伯爵から了解を取って来るしかないのだろうと、ロザリーはため息をついたのだった。
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