王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
ナサニエルとバイロンに結託されると、侯爵には手も足も出なくなる。
それを阻止するために彼がとった方法は、少しずつバイロンの体を弱らせることだった。
そのころ、かつてマデリンの要望に従い輝安鉱を入手したジェイコブ・オルコットが教授職を得て、ポルテスト学術院に戻ってきていた。
彼に、即効性が無いが体を弱らせる毒はないかと相談したところ、教えられたのが鉛だ。
自然にも存在し、食品に混ざって人が口にすることもある。蓄積性があり、最初はちょっとした体調不良といった症状しか現れないが、続けて摂取することにより鉛中毒を引き起こす。
積極的に殺す気はないが、弱らせたい相手に効果的な毒だ、と。
侯爵はバイロンのもとに定期的に鉛入りの菓子を差し入れた。
そして彼は徐々に、体を弱らせていったのだ。
『誰かの手を借りなければ、お前は何もできない』
繰り返し繰り返し、そう言い聞かせながら、バイロンが手のうちに落ちてくるのを待った。
だが、どこまでいってもバイロンはナサニエルを支持すると言ってきかなかった。
自分に政権を握らせる切り札だったはずのバイロンは、もはや自分の手に収まる気はないようだった。
だが、バイロンの不調に伴い、ナサニエルの気力がどんどん失われていった。
議会でさえ賛成票を獲得できれば、流し読みの状態で裁可を下すので、侯爵は図らずも自分の望んだ状態を手に入れた。