王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「え……じゃあ今のは侯爵の手のものか?」
「断言まではできないけどね。……ったく、君は変なところがお坊ちゃんなんだよな」
途中まで同じように育ったケネスに言われたくはないが、助けてもらった手前、反論はできない。
「だがどうしてケネスが。お前は遊学中だってクロエ嬢が言っていたぞ?」
「君が捕まっているときに、本当に遊んでいるわけないだろう? 俺は俺で、伝手をたどっていろいろ調べていたんだよ。そんなときに父上から君が解放され、グリゼリン領に行くと連絡があった。この道中で何か起こりそうだと、傭兵を雇って警備を整えていたんだ」
「よくそんな金があったな」
「父上は身を守ることにかける金は惜しまないからね。それに、いろいろ調べているうちにうってつけの協力者を見つけたんだ」
「協力者?」
「そう。俺はね、いい加減、反撃するつもりなんだよ。俺の弟分をよりにもよって殺人犯に仕立てようとするなんて、許せるわけがないだろう。それに、クロエまでが大変なことになっているそうじゃないか」
不快感をあらわにしているが、どこまでケネスに正しく伝わっているかは不明だ。
少なくとも、クロエは自分から動いて、イートン伯爵さえも振り回しているようだったが。
「じゃあ、なにか手立てがあるのか?」
「もちろん。君にはしばらくこのまま行方不明になってもらうよ。さ、まずは協力者を紹介しよう」
集まった男たちの中には、どことなく見覚えのある顔があった。
「……父上の側近のひとりじゃないか?」
「ええ。アイザック王子殿下。ご存知でいらしたんですね。ジョザイア・マクベインと申します」
「俺はもう、王子ではない」
「いいえ。王は本気であなたを臣籍降下させてはいません。まずは場所を移動しましょう。侯爵の手のものがどこで見ているか分かりません。少し複雑な道を行きますよ」
彼らはザックに体をすっぽり覆うコートを着せ、森の中を移動した。