恋を知らない花~初恋~
10
一人で帰る部屋はやはり淋しかった。
こんなに広かったかな?
拓也の言うとおり部屋は片付けられており拓也の痕跡はどこにも見当たらなかった。
部屋に着いた頃拓也からメッセージが届いた。

『無事に帰ったか?鍵はドアポストに入ってる。』

と短い文章だった。
私も『了解、無事に帰ったよ。』とだけ返信した。

それからありがたい事に新人教育も順調で忙しさが増し、淋しさをあまり感じずに過ごした。
ただ、やはり夜真っ暗でひとりの家に帰るのは淋しかった。
それも次第に慣れたし、淋しいと思いつつも疲れていつもすぐに眠れた。

あれから夜のお相手とは縁を切ったまま、健全な日々を過ごした。

そろそろ夏に突入しそうな梅雨時に一度通っているジムの駅前で真中さんを見かけた。
見覚えのある可愛い女の子と相合い傘で歩いていた。きっと真中さんの会社の受け付けの子だ!
私はそのお似合いの可愛らしいカップルを見て心臓を鷲掴みにされるような胸の痛みを感じた。

「フフッ、これが失恋の胸の痛みかな?自業自得だけど。」

私は自嘲ぎみに笑った。
結局忙しいと自分に言い訳して真中さんのことは考えないように逃げていた。
向き合う勇気も出ず背中を向けたままだったのだ。

せっかく拓也が教えてくれたのに…溢れそうになる涙をこらえて私は駅の中へと急いだ。
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