ボードウォークの恋人たち
ぐいっとハルの身体を押すと、あっけなく唇が離れていく。
ハルにとってキスは挨拶のようなものなんだ、たぶん、お久しぶりーみたいな?

「何やってんのよ、ハル!アメリカでもそうやって恋人でもない女を次から次へと押し倒してたの?顔がいいからってふざけないで」

本気で怒鳴るとハルの目が驚いたように丸くなった。

「恋人でもないって…ああそうか。言ってなかったな。水音、俺と結婚して」
そう言ってまた顔を近づけてきた。

・・・はあああああああ??????

「ふざけんなーーーーー!」

思いっきりハルのわき腹にパンチを入れてやった。
さすがに「うっ」っとうめき声をあげたハルが身体を丸めた隙にハルの身体の下から抜け出し、そのままの勢いで傍らにあったバックをひっつかむと部屋から飛び出した。

「水音!」

ハルの声が聞こえたような気がするけれど、もちろん無視、最低よ。

エレベーターのボタンをガチガチとしつこく押していると、すぐにエレベーターの扉が開いて飛び乗った。閉まるボタンを連打すると中にいたカップルが目を丸くしていたけれど、そんなことに構っている余裕はない。

幸いハルは追いかけて来なかった。


何なの、今の一体何なのよ。
いきなり押しかけて強引に連れ出して。

キスして抱きしめて
おまけに”忘れてた、結婚して?”

この大馬鹿野郎
心の中で絶叫しこぶしを握り締めた。




***





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