ボードウォークの恋人たち
「ほら、ガキはもう帰れ。タクシー呼んでやるから支度しろ」

即座にスマホを取り出すリュウさんの腕に「待って、待って」と詩音と二人で縋り付く。

「待ってよ、リュウさん。今夜は私のうちに水音を連れて行くからタクシーはいらない」

詩音の言葉にスマホを操作する指が止まり、自分の右腕に縋り付く私と左手に縋り付いている詩音の顔を見比べるようにして見つめる。

「タツヤとケンカでもしたか?」

「まさか」
詩音が即答する。

「だったらどうしてこんな時間から新婚の詩音ちに行くんだ」

「・・・・」

私と詩音は顔を見合わせてリュウさんからの視線を避けた。

「おい、水音。問題はお前か」
再び伸びてきた長い指が私の頬をつまむ。

「いで、いでっ。いひゃい~。やめれぇ~・・・」
ぶにぶにとつままれて私は最小限の声で悲鳴をあげた。

「もうっ、リュウさんったらやめて。水音のほっぺが伸びちゃうから」
詩音がぐいぐいとリュウさんの腕を引っ張ってくれてやっと私の頬を離してくれた。

「お前は一体いつになったら大人になるんだ」
リュウさんがふぅっと息を吐いた。

「いつって、もう立派な大人なんですけど」

「なわけあるか。大人だったら翌日の仕事のことを考えてプライベートな時間もきっちり自己管理するんだよ。それができてんのか、今の水音は」

「・・・・」

勘もいいリュウさんに事情のあるのは詩音じゃなくて私の方だとバレてる以上こうビシッと言われては返す言葉もない。

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