ボードウォークの恋人たち

隙間

誕生日の翌日からハルはまた忙しくなり顔を合わせない日が続いている。
助かったと思っている自分が嫌でため息をつくことが増えた。引越しの話はもちろんできてない。

昨夜、準夜勤を終えてマンションに戻るとエレベーターの前で同じタイミングで帰ってきたらしいハルにバッタリと出会った。

「・・・久しぶり」

「ああ」

「ずいぶん遅かったんだね」

「ああ」

あの日からハルも私と距離をとっている。
会話は続かないし、こうして話しかけても空返事が帰ってくる。ハルのふたば台病院の勤務の日にもここしばらくは夕食も作っていない。どうやら勤務後にも大学に出掛けているらしい。そこで夕食もとっているのだろう。

それきりエレベーターが最上階に着くまでハルは口を開かなかった。

まるで怒ってるかのような態度に何なのよとムッとしてしまう。
わたしが何かしたって言うの?

玄関を開けたのはハルだった。
鍵を開けドアを大きく開くと私に先に入るように促した。

「ありがとう」おざなりなお礼を言ってスニーカーを脱いでいると急にハルが目の前に立ちふさがる。
「水音」

え、なに?

驚いて顔を上げると、ハルがもう一度私の名を呼んだ。

「水音」

「なに?」ハルが何が言いたいのかわからないんだけど。

「水音、ただいま」

「?・・・お帰りなさい?」

私が首を傾げそう言うと、強張った顔をしていたハルがふわりと表情を緩めた。

「うん、水音ただいま」

「はい、おかえりハル」

「うん、おかえり水音」

「ただいま?ハル」

なんだかよくわからないけれど、ハルに誘導されるままただいまとお帰りを繰り返すと、魔王のご機嫌が直ったらしい。
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