ボードウォークの恋人たち
これも家族ごっこの続きかな。
あれからほとんど顔を合わせてなかったし、帰宅時間もバラバラで挨拶らしい挨拶を交わしていなかった。

「この間の誕生日にケーキ屋で出会った女と俺はただの同級生」

唐突にはじまった話に私の胸が抉られる。今そんな話を聞きたいわけじゃないんだけど。

「そう」ハルから視線をそらしハルの身体を除けるようにして自分の部屋に行こうとすると手首をつかまれた。

「待て。なんか勘違いしてそうだから言うけど、あの女には大学時代から何度か誘われたことがあるし留学先も同じだったけど、俺にとってはただの同級生だから。今も昔も好意はない」

あの時のハルは私を背に庇うような姿勢を取ったしあの女性にかける言葉も冷たかった。彼女の方もハルと一緒にいた私に明らかに敵意を向けていたからそんなことだとは思ってたけど、まさか留学先も一緒だったとは。

でも、だからなに。
「わかったから。離して」

そのまま部屋に向かおうとすると
「自分には関係ないって顔だな」
また機嫌が悪くなったハルの低い声がした。

軽く掴まれていただけだから簡単に外れると思った腕は反対に強く握られてしまう。

「離して。私疲れてるの。もうこんな時間だよ。ハルだって早く寝た方が良いんじゃない」

「このタイミングを逃すと、次いつ話ができるかわかんないだろ」

「わかったって言ってるじゃない。あの人はただの同級生なんでしょ、ちゃんと理解した」

こんな話はしたくない。
ハルの女性関係なんか知りたくないし、知らなくていい。
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