ボードウォークの恋人たち
「浜さん、カンファレンスって・・・」何時からですかと聞こうとしたところで浜さんがくすっと笑った。

「あら、そんなの嘘よ。う・そ」

浜さんが綺麗なお顔でさらりと言い、望海さんは感心したようで「さっすが浜姐さん」と深く頷いていた。

「聞くに耐えない暴言だったもの。って暴言は私もよね」

「そんな事ないですよ。水ちゃんはもっと酷いこと言われたんですからっ。ホントにあの女いったいなんなのよ」

望海さんも顔をしかめている。

「彼女、先月から望月先生の代診で大学から来てるけど、7E病棟の主任の話じゃあまり評判よろしくないみたいね」

内科の望月先生は奥さんの出産に合わせて3週間の育児休暇をとっているイクメンドクターだ。
その望月先生の代わりで大学の医局から派遣されたのがさっきの女医さんってことらしい。


「水ちゃんは顔色戻るまで今から会議室で私の代わりに内職。水ちゃんの担当の病室は私が代わるから」

「いえ、そんな。大丈夫です。やれます」

「ダメよ、酷い顔してる。そんな精神状態の人に大事な命は任せられない」浜さんに即座に否定され私は息を呑んだ。

「・・・そうですよね・・・すみません。お願いします」
これから時間はオペ後のお迎えと処置を担当していた。ひよっこの私のこんな動揺した頭で仕事はさせられないと判断した浜さんは正しい。

浜さんは私の頭にそっと手を乗せた。
「このところ水ちゃん元気ないと思ってたの。なにがあったのか知らないけど、仕事に私情は持ち込まないっていう精神力は付けておくようにね。だけど今回はトクベツに私が仕事を変わってあげる。ちょうどそんな水ちゃんにぴったりな”特別”なオシゴトもあるし」

特別を強調した浜さんに望海さんがくすりと笑いを漏らした。
「それ、科長に頼まれた事務仕事が嫌いだから自分の代わりにやってって意味ですよね」

「あ、コラ。それは秘密でいいじゃない。それにアレ別に私がやらなくてもいい仕事なんだから」
看護科長に押し付けられたのだと浜さんは肩をすくめた。
「1時間やっただけでもう飽きたわ」

会議室で新人ナースに配布する資料をまとめてたたんで封筒に入れるという単純作業でしかも一人で籠ってできるオシゴトを譲ってくれるのだという。

「やります。本当にすみません・・・」

しゅんとする私に
「水ちゃん、さっきも言ったけど今回はフォローしてあげる。でも私もずっとあなたと一緒に仕事をしていけるわけじゃないから、そこはちゃんとして」
そろそろ完全に独り立ちしてもらわないと、と浜さんは私の背中をぱーんと叩いた。

やっぱりダメだ。
仕事に影響するような私生活をしてたらやっぱりダメだ。
ただでさえ二ノ宮の娘だと周知されていて、そのせいか厳しい視線を向けてくる人もいる。

私には厳しさが足りない、もっとしっかりしなくちゃ。

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