ボードウォークの恋人たち
「先に俺の話でいい?」
「あ、うーん・・・どうぞ」
ハルの話は今度の学会発表の話だった。帰国後常勤医にならなかったのは学会発表のためだったらしい。
母校の大学の研究室の支援を受けてずっと研究をしていたのだと。それを今度の学会で発表するんだとか。
「ずいぶん毎日忙しそうだったのは…そういうことだったんだ。大学の研究って誰かと一緒にやってるの?」
「ああ、数人が関わっているところもあるけど、メインは俺。それと2年前から同期のやつが入力を手伝ってくれてる」
2年前と言えばまだアメリカにいた頃だ。
「アメリカから?ずっと二人で?」
それは知らなかった。
「二人じゃないよ。何?それがどうかした?」
「え、ううん…一緒にやってる人もこんなに忙しくて大変だろうなって思っただけだけど…」
「アイツは昨日も一昨日もベッドで仮眠とってたし大丈夫だろ。空いた時間はいつもその辺のソファーで寝てるし、メシもコンビニで買っておけば適当に食うし」
「そうなんだ」
ハルとその人はずっとそうやって一緒に研究をしていたんだろう。大変な仕事だ。
・・・あれ、いま何かが気になった。アメリカからずっと一緒にいる?
「それよりさ、水音」
ハルがウキウキと弾んだ声を出した。
「二ノ宮のおじさんが今度の学会が終わったらやっと時間作ってくれるって言ってくれたんだ。ようやくだよ」
それはどういうことだろう。
「何の話?」
「もちろん、俺たちの話。決まってるだろ?」
俺たち?
「俺たちの入籍はいつにする?俺は今すぐにでもしたいけど、二ノ宮のおじさんの許可がないとできないし」
「待って。私たちの婚約なんてお見合いを断るための嘘でしょ」
「は?」
ハルの動きが止まった。
「俺が言ったことを未だに水音は本気にしてなかったってことか?」
「もちろんよ。付き合ってもいないのに婚約だなんてあり得ないでしょ」
マジかよ、とハルが唸った。
「だったら…だとしたら、私と結婚したらハルはゆくゆくは二ノ宮総合病院の院長になるの?」
「うーん、そうだな。二ノ宮総合病院になるかふたば台病院になるかはわからないけど。そういうことになるかもな」