ボードウォークの恋人たち
「ハルは、ハルはさ、二ノ宮の病院の院長になりたいの？」

「それが目標なわけじゃないけど、院長になった方がやりたいことができるだろうからそうなったらいいなとは思ってるよ」

さらりと返事をされて束の間息が止まり目の前が暗くなる。

だったらハルは院長になるために私と結婚したいのね、そう聞こうとした私にストップをかけたのはハルのスマホの着信音だった。

リビングのテーブルの上に無造作に置かれたスマホがブルブルと着信を告げ、ハルは私の顔を見てごめんと断りを入れてそれを手に取った。

「…ああ、どうした？え？データ？…待て、落ち着け。いいから。今からすぐにそっちに行くから、ちょっと待ってろ」

何かあったのだろう。途中からハルが真面目な表情になり電話をしながら棚に手を伸ばし置かれた車と部屋の鍵がついたキーケースを持ち上げていた。

彼自身も慌てているけれど、電話の相手を懸命に宥めるように繰り返し大丈夫だ心配ないからと優しい口調で声をかけ続けている。

一方、私はそんなハルを冷めた目で見ていた。

離れていてもここまで聞こえる電話の向こう側にいる相手の声。半べそをかくようにハルに助けを求めているのは女性だった。

それはたぶん、ハルの本命彼女と言われているあの人なのだろう。あの先生が言っていた一緒にアメリカ留学をし今も一緒に研究をしているという、同期の女医さん。

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