ボードウォークの恋人たち
仕事を終えて帰宅したのは夕方だったのに、外はもうすっかり夜だ。
私の散歩ルートだったボードウォークをゴロゴロとスーツケースを転がしていくと思ったよりキャスター音がうるさくて、周囲の注目を集めてしまう。
この先の大通りでタクシーを拾いリュウさんのバーに行ってリュウさんに頼んで詩音に連絡を取るつもりだった。
リュウさんに怒られるかもしれないけど、この先しばらく自分のスマホの電源は入れたくない。
ハルから連絡が入っていてもいなくても気持ちが揺れてしまうから。
夜9時を回り、ボードウォークを歩いているのはデート中のカップルか夜のジョギングを楽しむ人。私みたいなのは目立っていた。
「もしかして二ノ宮さんですか」
近づいてきたカップルの男性に声をかけられよく顔を見ると大江さんだった。彼にお似合いなずいぶん綺麗な女性を連れている。
うわ、なんでこのタイミングで会うかな。
さっきまで泣いていた私の顔はおそらくひどいことになっている。
「こ、こんばんは」
俯きなるべく顔を見られないようにして挨拶をする。
夜とはいえ、外灯とカフェの明かりでそこそこ明るいから隠しきれないだろうけど。
「どこかにご旅行ですか」
私の持つ大きなスーツケースに視線が動き笑顔で問いかけられた。
「え、えーっと」
ご旅行ではないかな、返事に困ってちょっとためらっていると、大江さんの隣にいる女性が大江さんの袖をツンツンと引っ張っているのに気が付いた。
ああ、ごめんと大江さんが彼女に謝って私に向き直った。
「二ノ宮さん、彼女があなたに話した俺の大事な人です」
「え、あ、あのーーー帰国されたんですね」
大江さんが嬉しそうに目を細めて頷いた。
「初めまして。彼から話は聞いています。その節はお世話になりました、大江ひとみと申します」
綺麗な巻き髪と大きな瞳が印象的な美人さんは笑顔で私に綺麗なお辞儀をした。
「いえ、こちらこそ・・・ってええ?入籍されたんですか?」
「はい、実は昨日」
「急ではあったんですけど」
大江さんと彼女は顔を見合わせ微笑んでいる。
そりゃあまあ急展開ですね。