ボードウォークの恋人たち
「二ノ宮さん、どうしました?どこか痛むところでも…」

ひとみさんに顔を覗きこむように声をかけれる。

え?と首をかしげる。

「だって涙が」

涙?自分の顔に手の甲を当てると確かに濡れている。
そっか、また私泣いているんだ。自覚した途端にまたこみ上げてきた。

ふっ、ひっく。

自覚した途端、膝に力が入らなくなりへなへなとその場に座り込んでしまう。堪えきれず顔を覆ってすすり泣いた。

子どものように泣き出した私に新婚の夫婦は呆気にとられていたけれど一度溢れたら急には止められない。
二人の幸せそうな姿に当てられてまた悲しみがこみ上げてきてしまったから。

大江さんはおろおろしていたけれど、ひとみさんは私の様子を見て隣にしゃがみこみ何も言わずに背中を擦りはじめた。

「ごめんなさい…ひっく…ごめんな…ひっく」

いきなり泣き出してごめんなさい。
迷惑かけてごめんなさい。
お二人には関係ないのに、ごめんなさい。

なかなか止まってくれない涙。
それを優しく宥めてくれたのはひとみさんだった。


近くのカフェからテイクアウトのコーヒーを手に大江さんが戻ってくる頃、私は鼻をすすり上げながらやっと泣き止んでいた。

ひとみさんに連れられて近くのベンチに移動していた私。
鼻もかんだし、涙も拭いた。

「ほんっとに申し訳ございませんでした」
平謝りの私に大江さんは苦笑してひとみさんは心配そうに私の様子を伺っている。

「何があったか聞いても?嫌なら聞かないけど」

泣いている間、ずっと何も聞かずに背中を擦ってくれたひとみさんに初対面なのに甘えてしまった。

絵画で見た聖母のような温かくふんわりしたひとみさんの雰囲気に私はすっかりやられていた。
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