ボードウォークの恋人たち
脱、初恋
気合一発、滞りなく仕事を終えてリュウさんのお店に向かった。
開店と同時に入った私にリュウさんの片眉が上がる。
なんだろう、なんかものすごくご機嫌が悪く見えるんですけど。
カウンターの席を顎で示され様子を窺いながらおとなしくスツールに腰かけた。
「どんなトラブルだ」
「・・・何にも言ってないじゃないですか」
座ると同時にかけられた言葉にムッとして唇を尖らせた。
開店直後の店内にはまだ客の姿がなかったことでリュウさんの口の悪さは初めから全開だ。
「で、オトコか?仕事か?金か?」
「・・・だからどうしてトラブルだって決めつけるの」
決めつけられると何となく素直に認めるのも悔しくてたちょっと反抗的な言い方になる。
はんっと鼻で笑って「トラブルじゃないならそんな不細工な顔してここに来るな。店の品が落ちる」あっち行けとばかりにさっさっと手を振った。
不細工って・・・間違ってないけど。
「リュウさん、酷い」
唇を噛みしめ俯くと、ゴンっと頭にげんこつが落ちてきた。
「いたっ!」
「バカが。なんか困った事があったんなら早くここに来ればいいだろうが。詩音が心配してたぞ、昨日からお前と連絡がつかないって。スマホはどうした」
目の前のリョウさんは腕組みをして怒った顔をしている。
あ、拒絶されたわけじゃなかった。
心配してくれていたらしい。ホッとして目の奥がツンとする。
「ごめんなさい。でね、スマホを壊しちゃって。明日にでも買いに行くからリュウさんのスマホから詩音に連絡してもらっていいかなぁ」
上目遣いでお願いすると、リュウさんはやれやれと肩をすくめた。
「詩音は海外から依頼が入ったって言って今朝フランスに発ったぞ。それを伝えるために昨日から水音に連絡してた。それでいつまでたっても返信もなければ既読もつかないって」
「え、詩音日本にいないの?」
「向こうで打ち合わせ兼ねてデッサン迄してくるつもりじゃないか?しばらく留守にするって言ってたから。今から連絡しとくけど、スマホ直してお前からも早く連絡してやれ」
「そっか・・・」
日本にいないのなら詩音のアトリエに居候案は消失。
やっぱりアパート探しか・・・。