ボードウォークの恋人たち

「で、何があったの、みーちゃん?」

琴さんが私にニコリと微笑みかける。

「いえ、琴さん相手でもこればっかりは・・・」

「ん?みーちゃん何か言った?」

琴さんの微笑みが深くなった。
けど、けど、全然目が笑ってない。口元は綺麗に弧を描いているのに目が、目がっ。
背中がぞくっとして蛇に睨まれた蛙状態になった私。

ーーー琴さんの迫力に私が敵うはずもなくあっけなく全て喋らされていた。

怖かった・・・。
ほんと、女優オーラばんばん出してきて。圧がすごかったーーーー



「琴さんほんっと容赦ないですね。この間のドラマの女刑事そのものだった・・・」

どっと疲れた私はカウンターテーブルに突っ伏していた。

女刑事怖い、女優怖い。
美しく整った顔をして毅然とした役柄からちょっと抜けたコミカルな役柄まで演じる琴さん。
今日の琴さんが纏ったのは女刑事役だったらしく詰められているうちにここがバーじゃなくて取調室かと錯覚しそうになったもん。

今はもう女優オーラを消してリュウさんの恋人というプライベートポジションの綺麗なお姉さまに戻っている。

「ほら、これでも食え」

べたりとテーブルに頬をつけてぐったりしていると、つんつんとつむじをリュウさんに突っつかれて顔を上げた。

「かつ丼じゃなくて悪いけど」

私の目の前にパスタのお皿が置かれた。
アボカドと海老のパスタ。

オリーブオイルとレモンの香りに刺激されて胃袋がきゅっと収縮し始め空腹を感じた。
取調室にはかつ丼が定番なんだけど女刑事もいなくなったことだし、美味しく頂いてしまおう。
昨日は夕食をとれるような状態じゃなかったし、今日は朝食もお昼も食欲がなく砂を噛むような味気ないものだった。

「いただきます」

琴さんによってすっかり吐き出した私は少しスッキリしていた。開き直っただけかもしれないけれど。
私が話している間、二人はずっと黙って聞いてくれて、話し終わった後もリュウさんは頭を、琴さんは背中をポンポンとするだけで何も言わなかった。

大きな口でモグモグとパスタを頬張っていると、リュウさんから微妙な視線を感じる。

「何か?」
慰められるのもそんな男を好きになる方が悪いと謗られるのもいやだ。

「いや、いつの間にか恋愛してたんだなと思って」

リュウさん私のこといくつだと思ってるの?
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