ボードウォークの恋人たち
「リュウさん、ごちそうさまでした。詩音もいないし明日から全力でアパート探すことにします。明日も朝から仕事なんでおとなしく帰ります」

立ち上がった私の前にリョウさんが何か差し出してきた。

「これ持ってけ」

「これって、スマホ?」

「そう。ここの店の。その様子じゃ自分のスマホの電源が入れられるようになるまでまだ数日かかるだろ。それまで持って行け。何かと不便だし。詩音とも連絡が取れるようにしといてやれよ、あれはかなり心配症だから。さっき俺の携帯から詩音には連絡しておいた。詩音の手がすいたら折り返しそっちのスマホに連絡が入ると思うからきっちり話をするんだな」

あー、うん。そうだね。

「心配症はリュウもでしょ」と琴さんが苦笑して
リュウさんが「琴」と渋い声を出した。

「わかった、ありがとう。お借りします」

「みーちゃん、私次の映画の撮影までしばらくお休みなの。引越し決まったら教えてね。手伝いに行くわ。わたし収納とか片付けとか得意だから」

天下の美人女優、早川琴さんに引越しの手伝いなんて畏れ多いことができようか。

「お気持ちだけで・・・荷物なんてほとんどありませんし」

謹んでお断りをすると
「あら、寂しいわ。でも、そうね、引越しするかどうかもわからないものね。気を付けて帰るのよ、みーちゃん。」
とふふと口元に微笑みを浮かべて琴さんは私にひらひらと手を振った。
リュウさんの渋い顔は変わらず。
私はゴメンナサイと小さく頭を下げて店を後にした。


帰りのタクシーの中でリュウさんから借りたスマホから詩音に謝罪のメッセージを送っておく。フランスとの時差ってどのくらいだったっけ。

ホテルに戻ると睡魔に襲われ入浴もそこそこにベッドに入った。
疲れているのだと思う。
身も心も。

折角の五つ星ホテルも簡単にシャワーを浴びて寝るだけの空間になっている。
勿体ないなぁ。
今後一人でこんな高級ホテルに泊まる機会はないかもしれないのにーーー。
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