ボードウォークの恋人たち
そうだ、大江さんに連絡しないと。
図々しいけど、詩音が帰国するまであと3日間この部屋をお借りしたいって伝えなきゃ。
リュウさんから借りたスマホで大江さんの携帯に電話をかける。
…出ない。
入籍したばかりでやらなきゃいけないことだらけだと言っていたから、忙しいのかも。
タイミングが悪かったのか大江さんは電話に出ず、自分の名を名乗りまた連絡するとメッセージを残して電話を切った。
するとすぐに折り返し着信が鳴りはじめて慌てて通話をタップする。
『二ノ宮さん、今どこに?』
お忙しいところすみませんと言いかけた私を制するように大江さんが話し始める。
「勤務が終わってマロナーゼホテルの大江さんのお部屋に戻ってきたところですけど」
『二ノ宮さん、最近舘野先生と連絡とってる?』
「えっと、学会期間中はしてないですけど」
嘘ではない。
正確にいえば学会前日から連絡はとっていない。だけど準備を含めれば前日はもう学会期間だろう。
『僕、いま学会の会場にいるんだけど。器材展示の関係でね』
あ、そっか。
学会では研究発表だけじゃなく、同時に医療機器や医療材料などの展示や紹介などもしているから大江さんの会社も参加しているんだ。
『さっき舘野先生を見かけたんだけど、ずいぶん顔色が悪そうだったから気になって。学会発表が大成功だったから分刻みのスケジュールに追われて休む隙がないのかもしれない』
・・・・。
何て返事をしていいのかわからず黙りこんでしまった。
そんな私の様子に大江さんも今回の家出の原因が実家ではなくハルだと気が付いたのだろう。
『一応、報告ってだけ。ところで、ホテルを出てからの住まいが決まったってことかい?』
「はい。ただ今日明日には入居できないのであと3日間お世話になりたいと思いまして」
『うん、僕の方は大丈夫だけど、新しい住まいは、その、安全なところなんだよね?』
「ええ。管理人さんもいて24時間セキュリティはバッチリなマンションです」
詩音から聞く限りセキュリティは万全。自信を持って返事をする。