ボードウォークの恋人たち
『いや、僕が聞いているのは誰かのところに同居するとかそういう類いの。例えば男性のところに転がり込むとかではないよね?ごめん、気を悪くしないでね。僕は一応二ノ宮グループの取引先の人間だから二ノ宮のご令嬢に何かあったら・・・ね』

なるほど。
大江さんの立場はわかる。今後の行き先で万が一取引先の二ノ宮の娘に何かあったら、それに関与した彼の立場が悪くなる可能性がある。

関わってしまったのだから今後の行き先を確認するのは当然のことだ。

「いえ、既婚の幼なじみの仕事場に借りているマンションにいきます。そこには男性はいませんからご心配なく」

『それならよかった。何だか追い立てるようでごめんね。もう少し長くそこを貸してあげられれば良かったんだけど』

「いいえ、本当に充分よくしていただきましたから。このご恩はいつかきちんとお返しします」

『それはいいんだ。これは俺たちからのお返しだって言ったでしょ。ヒトミが俺を選んでくれたのは二ノ宮さんのおかげだからね。だからこれで貸し借り無しってことで』

「それじゃ大江さんの方の負担がーーー」

『いいよ、本当に。それより、携帯変えたの?この携帯番号って?』

「いえ、これ借り物なんですけど、引越し先で落ち着くまでしばらくはこれを使う予定なんです」

『わかった。元の番号に戻す時にはまた教えてもらえる?ヒトミが二ノ宮さんと今度はゆっくり食事をしたいって言ってるから』

「私もです。ぜひまたお会いしたいです。時間ができたら教えてくださいね」

あの日、大江さんたちにあのボードウォークで出会ってなかったらーーーこんなに落ち着いていられなかったかもしれない。
私も会ってお礼を言いたいし、ヒトミさんともう少し話をしてみたい。

次にヒトミさんと会えるのは完全帰国してからになるらしい。
予定より早く入籍して夫婦になった大江さんたちは忙しそうだけど、電話の向こう側にいる大江さんの声は弾んでいて充実しているんだろうなと思う。
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