ボードウォークの恋人たち


勤務時間が終わる絶妙なタイミングでその人は病棟にやって来た。

すぐにピンとくる。
福岡先生関連の患者さんは今いないはず。

顔に胡散臭い笑顔を張り付けた福岡先生が私にお疲れさまとニヤニヤしながら声をかけて来た。

「僕、今夜の病棟当直なんだけど、どう、落ち着いてる?」

「お疲れさまです、福岡先生。今のところ落ち着いてますよ」
こちらもニヤニヤして返してやる。

今日の夜勤は浜さんだ。
手が空いたタイミングを見計らいお菓子を持っていそいそとナースステーションにやってくるつもりなんだろう。
福岡先生も可愛いところがあるなぁなんてついにやけてしまう。

「で、ケンカの原因は何なの?」
声を潜めて何を言うのかと思えばーーーなんでそっちなのよ。

「何の話です?」
イヤな話題に顔をフイっと背ければ、
「さっき舘野先生から電話をもらってさ。二ノ宮さんがきちんと出勤してるか確認して欲しいってさ」
と爆弾を落としてきた。

それってハルが福岡先生に私の所在確認を頼んだってことだよね。

「内密にって言われたんだけど、僕、間接的に二ノ宮さんに恩があるからね。舘野先生には悪いけど二ノ宮さんを優先させてもらったんだ」

私に恩があると言いながらニヤついているのだから始末が悪い。この顔は絶対に面白がっている。

「ご報告ありがとうゴザイマス。舘野先生にはしっかり働いていたとお伝え下さいませ」
ほぼ棒読み状態。
過剰に反応してしまえば突っ込まれるのが目に見えている。

「昨日夜勤だった?昼間の勤務のはずなのに深夜になっても帰ってこなかったって心配してたけど。だから今日出勤してるか見てきて欲しいって」

どうして私がマンションに戻ってないと知っているんだろう。
ハルは最低でも明日迄の4日間はホテル泊りのはず。
私が帰ってこなかったと知っているのならば昨夜ハルはホテルに泊まらずマンションに帰宅して確認したということだろうか。
< 137 / 189 >

この作品をシェア

pagetop