ボードウォークの恋人たち
「舘野先生が僕に確認を頼むってことは、二ノ宮さん二人で暮らしてる家に帰らず電話とかメッセージを無視してるってことでしょ。痴話げんか、僕でよかったら相談乗るけど?」

福岡先生にハルと一緒に住んでることは知られている。だからこそ、ハルもこんな事を福岡先生に頼んだんだろうけど。
この人、絶対に面白がっている。
これは痴話喧嘩なんて可愛いものじゃなくて実際はハルの出世欲が絡んだもっとドロドロしたものだって知ったらどうだろう。

「お手数をおかけして申し訳ございません」
私はことさら丁寧に頭を下げる。

「売り言葉に買い言葉でちょっと。で、昨日は知り合いのところに身を寄せてました。ですからご心配には及びません」
その知り合いは福岡先生の大切なご友人の大江さんのことで、身を寄せているのは大江さんが借りている部屋だけど。
大江さんは今の私のことを不用意に他人に話すようなことはしないだろう。たとえ親友の福岡先生にでも。

「えー、困ってることがあればーーー」
バッサリと切り捨てた私に福岡先生は食い下がる。

「先生、浜さんの好きなケーキ屋さんをお教えしましょうか。最近ドハマりしてるらしいですよ」
ニコリとほほ笑んで見せると福岡先生は「え、ホントに?」と前のめりになった。

よかった、食いついてきた。

浜さんの行きつけの居酒屋情報もあるのだけれど、アルコールの入ったところで浜さんをお持ち帰りされては堪らないからそれはまだ秘密。

彼女は私の大事な先輩なのだから。それに友達想いでいい人なんだろうとは思っているけど、福岡先生が信頼に値する人物かどうかはそこまで接点のない私にはまだ見極められない。
ま、うわばみの浜さんがそう簡単に持ち帰られるなんてことにはならないだろうけど。

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