ボードウォークの恋人たち

振り切る身体と振り切れない心

***


当たり前だけど、福岡先生とやり取りした翌日も私はきちんと働いていた。

詩音が日本に戻ってくるのは明日の夜。
ハルの学会は昨日で終わり。今日は大学の医局員総出で残務整理組と海外からの招待客への接待組に分かれそれぞれの仕事をし、夜は慰労会になっているはずだ。

私は準夜勤務を終え職員出口から外に出た。

星が綺麗ーーー
秋も深まり夜は冷え込んできている。空気も乾いていて冬が近いのだなと肌身に感じた。
ハルの誕生日の頃は公園で昼寝をしてもポカポカと暖かかったのに。季節は確実に変わろうとしていた。

職員出口のすぐ脇にタクシーが何台か止まっている。時刻は深夜帯になっている。準夜勤終わりのスタッフの安全に配慮して病院がこの時間にタクシーを手配してくれているのだ。

マロナーゼホテルまでこの深夜帯の時間ならタクシーで10分ほど。明日も夜勤が続く私は足早にタクシー乗り場へと行こうとして、人影に足を止めた。

「水音」

暗がりの中、防犯灯の下、建物の壁に寄りかかっていたのはーーースーツ姿のハルだった。

無視して通り過ぎようと思ったけれど、それはそれで私が意識しているようで悔しい。

「慰労会の三次会にはいかなかったの?あなた主役でしょ」

大成功だった大きな学会の後、この時間なら三次会に繰り出し夜を徹して騒いでいてもおかしくはない。もしくは疲れ切った身体を癒すためにとっとと休むか、あの愛しい人と二人で過ごすとか。こんな時間にこんなところにいる理由がわからない。

「今、どこに泊まってるんだよ。詩音ちゃんは今海外だって聞いた。だから彼女のところにはいないんだろう。暁人のところにも二ノ宮の家にもいないのなら、いったい水音は今からどこに帰るつもりなんだ」

ハルは私に詰め寄ると両肩を掴んだ。

「ハル、離して」
< 140 / 189 >

この作品をシェア

pagetop