ボードウォークの恋人たち
「水音って・・・あなたが二ノ宮さん?ここのお嬢さんの」
ベッドの反対側にいた女性が私に厳しい視線を向けてきた。

「そうだけど」
私より早く返事をしたのはハルだ。

「でもあなたには関係ないから」
初めて聞いた冷たい声。
冷たくバッサリと切り捨てるような言い方はハルらしくない。

「あなたたちはもう帰ってくれ。それともう来なくていいから」
ハルの顔はまた険しくなっている。

「何てこと言うのよ、母親に向かって!」
「治臣!」

え?
女性たちのヒステリックな声にもふたりのうち1人がハルの母親だという事実にも驚いて身体が固まってしまった。

どうしよう、挨拶した方がいいんだろうか。
でも、なんかめちゃくちゃ怒ってるし、私のこともいい印象がないみたいだし。
挨拶するタイミングないんだけど・・・。

ハルの手を握りしめたまま身を硬くする私にハルが気にするなとでもいうようにぎゅうぎゅうと2回握り返してくれる。

「諸川さ…お義父さん。お願いですからこの二人を連れて帰ってくれませんか。こんなヒステリックに騒がれたら治るものも治りません」

え?おとうさん?
中年の男性のことをハルは”おとうさん”と呼んでいた。

私の知ってるハルのお父さんはこの人じゃなかった。ということはお義父さんってこと?

まるで俳優のような雰囲気の男性の顔はスッとしていてよく整っているもののハルに似たところはない。

私の知っている彼のお父さんは眉と唇がハルにとてもよく似ていた。
ここにいるのは、お母さんと義理のお父さん。それと彼女は…?

「・・・そうだね。治臣くんの言う通りだ。智子さん、沙乃帰ろう」

「創一さん!」
「パパ!」
悲鳴に似た声が2人の口から出てハルとハルにお義父さんと呼ばれた男性が顔をしかめた。

「治臣くんは安静が必要なんだ、二人とも今すぐ病室を出なさい」

男性から漂うオーラと毅然とした態度にハルのお母さんは唇を噛みしめ、沙乃と呼ばれた女性は不機嫌そうに顔を歪める。

「病院で騒いではいけない、小学生でもわかることを今言わないといけないのか」
ハルの義父が女性二人に向かって目を細めると女性たちは渋々ながらソファーに置かれたハンドバッグを手にした。
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