ボードウォークの恋人たち
「病室で騒いですまなかったね」
お大事に、そう言って出て行きかけたお義父さんがくるりと振り返った。

「二ノ宮さん、治臣くんを宜しく頼みます。彼が信頼する家族はあなただけのようですから」

え?家族?
私の返事を待たずにお義父さんは出て行ってしまった。

お義父さんが出て行った後の広い病室に残ったのは私だけ。
途端に静けさが訪れて何だか力が抜ける。

「---水音、来てくれてありがとな」
改めて言われて
「びっくりしたたし、心配した」
口を尖らせた。

でも、そんなことより
「ハル、怪我の様子を教えて。一体どんな状態なの。救急車で運ばれたって、意識なかったって」
ホントに心配したんだからっ。

髪には血液が付いているところがあるし、とにかく顔色が悪い。目の下には真っ黒なクマがあり目の充血も強い。左手首は包帯が巻かれ痛々しく布団に隠れた背中や下半身などは一体どうなっているのか。

「頭蓋骨は?脳にダメージは?命の危険は?検査はどうなってるの?主治医は誰?」
私の手を握る右腕には点滴が繋がっている。

・・・あれ?1本だけ?

点滴をじっと見ている私にハルが苦笑している。

「そう、たいしたことないんだ。だからごめんな、心配いらない。さっき検査も済んで骨にも脳にも異常はなかったよ。念のため今夜は入院するけど明日には退院するから」

たいしたことないって・・・
「階段から落ちて頭から出血して、意識消失してたのに何でもないって?意識レベルいくつだったの」

「あーそれな」ハルが気まずいとでもいうようにふっと息を吐く。

「階段から落ちたけど、脳震盪を起こしたわけでも頭打って意識レベル下がったわけでもないんだ」

「え?」
どういうこと?

「ダダダンって階段から落ちたのは本当。で、咄嗟に右手で沙乃を庇って落ちた時床に左手をついたから左手首を骨折。この頭の出血は沙乃のド派手な髪飾りのせいだ。打って頭が割れたわけじゃない」

「落ちて意識がないって・・・」

「あー、うん、その、ごめん---寝てた」
「はあ?」

「いや、寝ちまったんだ。救急車待ってる間に睡魔に襲われて」
「はああ?」

「ここんとこ眠れてなかったから睡眠不足で。床に転がったら急に眠気に襲われてーーーいや面目ない」

・・・まさか意識レベルがダウンしたんじゃなくて寝てた?

そういえば、心電図のモニターも付いてないし、点滴も一種類だけだし他の器械の姿もない。
ホントに頭の方は軽傷だった?ただまだ油断はできないけど。

「よかったぁ~」
私の全身から力が抜けていく。
とりあえず、ハルは大丈夫らしい。

神さま、ありがとう。感謝します。
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