ボードウォークの恋人たち
それから何度か母にしつこく誘われハルは諸川の家族と食事をする機会をもった。

明らかに母と義妹はギクシャクしていた。20歳を過ぎて出来た義母という存在を受け入れられない様子の義妹。
しかしハルに対しては大学でも親し気に話しかけてくるようになっていた。


小学生の頃に家を出て行った母とは疎遠になり会うことはほとんどなかったというのに、今頃どうしてハルが母に何度も家に呼ばれるのか。
その理由に気が付いたのは義妹の態度と母の視線だった。

沙乃はハルがいると母とも会話するし、明らかに機嫌が良い。
母は息子の治臣という存在を利用して義妹との距離を縮めようとしているのだとわかった。

ハルは大学で沙乃との関係を口にしなかったがそれは沙乃も同じだった。名字も違うし改めてそんなことを周りに言う必要もなかったし。
ただ、変な噂が流れるのも自分にとってプラスではないから、沙乃とは一定の距離を置き母に誘われても諸川の家には行かないようにした。

卒業まであと2年になった頃、どうしてもと誘われた何度目かの食事会のあと、母の夫である諸川さんに将来どうするのかと聞かれた。

奨学金のこともあり当然二ノ宮病院で勤務すると言ったハルに母の顔がみるみるうちに引きつっていった。

「そんなのまるで丁稚奉公じゃないの」
「お金で自分を売ったってことなの?」
などと騒ぎ出し、
「舘野はどういうつもりでいるの、息子を売るなんて」
とハルの実父である別れた別れた夫に電話をしようとする始末。
諸川さんが慌てて止めていたがそのうち今度は二ノ宮家の悪口を言い出した。

二ノ宮の父親は医者なのに息子は頭が足りず医者になれなかったから出来のいい治臣を囲い込んで娘の婿にするつもりだ、
息子だけでなく娘も医者になれるだけの頭がないのだろう、
中学生のうちからハルがあの家に誘い込まれたのもあの一家に洗脳され騙されているから、
あなたは子どもの頃から完全に騙されている

その心ない言葉にハルの頭に血が上っていく。

「今まで何一つ関わってこなかったあんたに何がわかる!」

実父にも言っていないが、まだ中学生だったハルの遠足のお弁当を作ってくれたのは二ノ宮の母だった。
ハルの誕生日も二ノ宮の家で二ノ宮の家で過ごした。二ノ宮の母と水音が作ってくれた料理に舌鼓を打ち食後は皆でテーブルゲームをする。暁人や水音だけじゃなく二ノ宮の両親の誕生日にもハルは呼んでもらえた。

流石に大晦日や元旦などはハルの父親への配慮があったのだろう「もし、ひとりで過ごすのならこちらへいらっしゃい」と言われていた。

ハルに家族の団欒を教えてくれたのは二ノ宮の家族だけだ。

15の誕生日、実母から届いたのは現金書留。メッセージも何もなかった。
二十歳に届いたのも現金書留のみ。
もう笑ってしまう。

幼い頃の記憶の中の母はハルを家政婦に預けて出掛けているイメージしかない。
嫌われていたというよりは無関心だったのだろうなと思っていた。
別居してから母が自分に連絡してきたのは離婚の連絡とこの再婚の連絡だけ。

そんな関わりしかない実母が今さら何を言うのか。

ハルはそれから諸川家に行くことをピタリと止めた。
実の親だと思うから付き合ってやったが、そんなことを言うのであれば切り捨てる、その一択しかない。
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