ボードウォークの恋人たち
一方、水音との関係が悪化していたのはそんな頃だった。

水音はほとんどハルと口をきいていなかった。その理由をハルは勘違いしていた。
ただの思春期の女子の心の揺らぎだと思っていたのだ。
実際は大きく違う。

水音はハルの家庭教師のアルバイトのことを知らなかった。モテるハルがただ女の子たちと遊んでいるのだと思っていたから、彼にまとわりつく女の子たちへの生理的嫌悪感と少しの嫉妬、彼女たちに対するハルの態度は不誠実で非常識だと思った。

一方ハルは水音の気持ちに気付くことはなく、もう少し大人になれば水音の苛立ちが収まり落ち着いた関係が築けるのだと思っていた。

その後、ハルが二ノ宮の父のところに奨学金返還の話をしに行ったときがまたハルの転換点だった。

ハルが奨学金を返還しその上その後の生活に不自由しないほどの貯蓄ができたことを報告すると二ノ宮の父はとても喜んでくれた。

この先二ノ宮グループに囚われず自由な進路を選べること、二ノ宮の家族に対して精神的にも対等な立場でいられること。
二ノ宮の父が奨学金を盾に二ノ宮グループにハルを取り込もうとは思っていなかったことがよくわかった。

ハルもあとで知ったのだが二ノ宮の父は自分の息子の暁人とハルが対等に付き合っていけるのかと気にしていたのだそうだ。とかく金銭の問題は人の心を卑屈にさせてしまうことがあるからだと。

暁人が気にしなくてもハルが気にしてしまっては対等にはならない。二ノ宮の父はハルのことをとても気に入っていたからそこは重要な問題だったらしい。

「でもハル君にうちの水音はあげないからね」

どうしてと聞いたハルに
「ハル君の女性関係、いい話聞かないからね。うちの水音は純粋なんだ。それにだよ、もし二人がこのまま付き合って結婚したとして、周囲から水音は二ノ宮の力を使って君を自分のものにしたと言われてしまうだろう」
と二ノ宮の父は厳しい目をした。

「ハル君の周りにはいつも女の子がたくさんいるし、彼女たちはみんなギラギラしてるね。わたしは娘をその輪の一人に加えたくはないし、その子たちから攻撃されるようなそんな目には遭わせたくない。ま、幸い今の水音は君のこと避けてるから心配いらないと思うけど」
昔はあんなに君にべったりだったのにね、と意味ありげな笑みを浮かべていた。

そこでやっと二ノ宮の父に牽制されていることに気が付いた。

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