ボードウォークの恋人たち
いつの間に水音は自分のものだと思うようになっていたのか。俺はこの二ノ宮家の一員ではないのに。

水音は俺のものじゃない。
黙り込んだハルに二ノ宮の父が意味ありげに頷いた。

「ところで、ハル君は卒業した後どうするつもりだい?」

二ノ宮の父が話を戻した。

「消化器内科の専門医になりたいと思ってます。二ノ宮総合病院の内田先生のような」

「ああ、彼ね。人望も技術も超一流。うちの看板の一人だね。--ー彼も昔はひょろひょろと頼りない所があったけれど、好きな女性ができた途端変わったね。自覚が芽生えたというか、自立せざるを得なかったというか。それからめきめきと力をつけて今の立場になって。昔は内科のお荷物研修医なんて言われていたのに」

昔を懐かしむような目をしたあと、ハルに厳しい目を向けた。

「ハル君もそうならないように気を付けた方が良い。他の病院に行くのならいいけど、うちに来るのなら暁人の友人であることは必ず誰かに指摘される。特に消化器内科はこの医師不足の中にあってもここに入りたいと希望する医師が多いんだ。その中に入るためにはどうすればいいのか、入るってことがどういうことになるのか」

要するに変に二ノ宮家と関わりのあるハルに向けられる視線は厳しいということか。
力が足りないうちは認められないということなのか。

実力をつけ誰からも文句を言わせないようにしなければ二ノ宮の父だけでなく暁人にも迷惑がかかる。

そこでやっとハルは自分の浅慮に気が付いた。

…俺はこのままでいいのか、と。
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