ボードウォークの恋人たち
ハルと家族(2)
「沙乃、お前なんでここに」
ハルが日本を出て4年が経っていた。
留学先の大学の研究室になぜか沙乃がいた。
「えへへ、来ちゃった。これ、お父さんから治臣へ」
手紙を渡されすぐに目を通す。
そこに書いてあったことに頭を抱える。もう少しで日本に帰ることができる、そんな時期だった。
手紙には、臨床に向いていないため研究職に進んだ沙乃がそこでも壁にぶつかって息苦しそうにしているからそちらでしばらく預かって欲しい、そんなことが書いてあった。
おそらく職場でも家で義母ともうまくいってないのだろう。
ハルから見れば厄介事を抱え込んだとしか思えないが、諸川さんには奨学金返済の時にお世話になった恩がある。
幸い留学もあと少し。
少しだけならと義妹の面倒をみることを了承した。
「わたしパソコンなら詳しいから。データ入力も解析も絶対治臣の研究の役に立つよ!」
そう自慢した沙乃の言葉に嘘はなかった。
実際彼女は役に立った。
指示さえすればきちんとやってくれる。医者という職業じゃなくて研究者のフォローをするような職を選んだ方が良いんじゃないだろうかと思うほど。
沙乃自身には発想や創造力といったものが足りない。
だから自分発信の研究者になることは難しいだろう。だが、そのサポート力は素晴らしいものがある。
ハルの研究発表が終わったらどこか気にいった研究者の元に行けばいいそう軽く考えていた。
ハルの研究室に同じ日本から来ている女性がいたことを思い出し、悪気なく紹介したのだがそれが大きな間違いだと気が付いた。
元山カスミ先生。
実家も代々医者という家系で海外留学という箔をつけるためここにいる人だった。
研究より身なりを整えることが重要だと思ってるんじゃないか?と思うこともしばしばあり今まで接触を控えていた。
だが、同じ国から来た女子留学生という括りで仲良くなるなんて考えてしまった俺は大バカ者だったと後になりハルは思う。
女性がお互い水面下で罵りあう姿はおぞましく、ハルは研究に集中できずどんどん疲弊していった。