ボードウォークの恋人たち
学会期間が終了し、海外から招聘した博士たちのお見送りのためハルを含めた医局員たちはホテルに集合していた。
ブランチミーティングと称した軽い食事会。
これを最後に学会関連全ての行事が終わる。
「舘野先生、昨日よりも更に顔色が悪いようですけど大丈夫ですか」
「ああ、明日から休みをもらうことになっているから大丈夫だ。ありがとう」
ここ数日毎日交わされる会話。
ほとんど眠れていないから余程顔色が悪いんだろう、皆に心配をかけて申し訳ない。
明日から3日間休みをもらっている。
ハルはその休暇を利用して水音を捕まえるつもりでいた。
やっとまとまった時間が作れる。
水音の誤解を解き胸を張って二ノ宮の父に会いに行くそう決めていた。
バンケットルームを出たところで博士たちにお礼と別れの挨拶をすると長かった会がやっとお開きとなった。
空港まで付き添う教授や講師の先生方に後を任せて俺たちは解散だ。
そんなハルに沙乃が近付いてきた。
「治臣、明日パパたちがお祝いにみんなで食事でもどうかって言ってるんだけど」
他の医局員たちがいる前でわざとらしくハルの腕に手を回すように触れてくる。
周りにいた者たちの空気が動き、彼女とか恋人という単語が聞こえてきてゾッとする。わざとなんだろう沙乃は不敵な笑みを浮かべていた。
コイツにとっては俺との関係は恋人でも義妹でもいいのだろう。とにかく二人が一番近い関係だと周りに思われたいだけ、そんな気がする。
「断る。俺のことは家族だと思わないでくれ」
「どうして?私たちずっと一緒なのに」
いい加減にしてくれ。
なにを言っても通じない沙乃にハルの苛立ちが募る。
もはや沙乃はハルにとって害でしかない。これ以上の会話は諦め、ハルは無言で階段に向かった。
早く帰ろう。一休みしたら今夜も夜勤明けの水音に会いに行こう。
二階のバンケットホールから階下のエントランスに向かうため足早に大階段を下りて行くと沙乃が追いかけてきた。
「待ってよ、ハル」
”ハル”
それは水音だけに許した呼び名だ。
「その呼び方をするなと言ったはずだ」
舌打ちをして唸るような低い声を出し振り返ろうとしたハルの横を「きゃっ」と悲鳴をあげた沙乃の身体が傾いていくのが目に入った。
ーー落ちる。
咄嗟に手を伸ばして沙乃の身体を抱え込み、庇った。
ただ人として、助けようと思っただけ。
どどどど・・・数段落ちた後に感じたのは手首の鈍痛と頭部の鋭い痛み。
幸いなことに腕に庇った女に怪我をしている様子はない。
「舘野先生!」
何人かの若い医局員が駆け寄ってきてくれた。
幸い周囲は医者だらけだ。
「ああ、大丈夫、頭は打ってない」と説明しているとたらりと額に血液が流れてきた。
「諸川先生のヘアアクセがーー」と誰かの声が聞こえた。
くそっ、なんで金属の飾りなんて凶器を頭につけているんだよ。
こんな面倒ごとばかりもううんざりだ、と厚みのあるエントランスの絨毯に不貞腐れたように仰向けに寝転がると急激に睡魔が襲ってきた。
あ、やべっ、睡眠不足がーーー
世界が暗転した。
水音がハルの病室に飛び込んできたのはそれから二時間後のことだった。
これもーーー
怪我の功名、----なのかな。
ブランチミーティングと称した軽い食事会。
これを最後に学会関連全ての行事が終わる。
「舘野先生、昨日よりも更に顔色が悪いようですけど大丈夫ですか」
「ああ、明日から休みをもらうことになっているから大丈夫だ。ありがとう」
ここ数日毎日交わされる会話。
ほとんど眠れていないから余程顔色が悪いんだろう、皆に心配をかけて申し訳ない。
明日から3日間休みをもらっている。
ハルはその休暇を利用して水音を捕まえるつもりでいた。
やっとまとまった時間が作れる。
水音の誤解を解き胸を張って二ノ宮の父に会いに行くそう決めていた。
バンケットルームを出たところで博士たちにお礼と別れの挨拶をすると長かった会がやっとお開きとなった。
空港まで付き添う教授や講師の先生方に後を任せて俺たちは解散だ。
そんなハルに沙乃が近付いてきた。
「治臣、明日パパたちがお祝いにみんなで食事でもどうかって言ってるんだけど」
他の医局員たちがいる前でわざとらしくハルの腕に手を回すように触れてくる。
周りにいた者たちの空気が動き、彼女とか恋人という単語が聞こえてきてゾッとする。わざとなんだろう沙乃は不敵な笑みを浮かべていた。
コイツにとっては俺との関係は恋人でも義妹でもいいのだろう。とにかく二人が一番近い関係だと周りに思われたいだけ、そんな気がする。
「断る。俺のことは家族だと思わないでくれ」
「どうして?私たちずっと一緒なのに」
いい加減にしてくれ。
なにを言っても通じない沙乃にハルの苛立ちが募る。
もはや沙乃はハルにとって害でしかない。これ以上の会話は諦め、ハルは無言で階段に向かった。
早く帰ろう。一休みしたら今夜も夜勤明けの水音に会いに行こう。
二階のバンケットホールから階下のエントランスに向かうため足早に大階段を下りて行くと沙乃が追いかけてきた。
「待ってよ、ハル」
”ハル”
それは水音だけに許した呼び名だ。
「その呼び方をするなと言ったはずだ」
舌打ちをして唸るような低い声を出し振り返ろうとしたハルの横を「きゃっ」と悲鳴をあげた沙乃の身体が傾いていくのが目に入った。
ーー落ちる。
咄嗟に手を伸ばして沙乃の身体を抱え込み、庇った。
ただ人として、助けようと思っただけ。
どどどど・・・数段落ちた後に感じたのは手首の鈍痛と頭部の鋭い痛み。
幸いなことに腕に庇った女に怪我をしている様子はない。
「舘野先生!」
何人かの若い医局員が駆け寄ってきてくれた。
幸い周囲は医者だらけだ。
「ああ、大丈夫、頭は打ってない」と説明しているとたらりと額に血液が流れてきた。
「諸川先生のヘアアクセがーー」と誰かの声が聞こえた。
くそっ、なんで金属の飾りなんて凶器を頭につけているんだよ。
こんな面倒ごとばかりもううんざりだ、と厚みのあるエントランスの絨毯に不貞腐れたように仰向けに寝転がると急激に睡魔が襲ってきた。
あ、やべっ、睡眠不足がーーー
世界が暗転した。
水音がハルの病室に飛び込んできたのはそれから二時間後のことだった。
これもーーー
怪我の功名、----なのかな。