ボードウォークの恋人たち
久しぶりに訪れた二ノ宮家のリビングルームは昔と変わらず温かい家庭の香りがする落ち着いた雰囲気だった。
俺の隣には笑顔の水音。向かい合わせのソファーには二ノ宮の両親が座っている。

今日は二ノ宮の両親に遅くなった帰国の挨拶と水音と結婚したいというハルの意思を伝えた。

それを二ノ宮の父は「いいだろう」と頷き母は手を叩いて喜んでいた。
もしかしたら反対されるかもしれないと不安を抱えていたハルはホッと胸をなでおろした。

隣に座る水音は両親が自分たちの結婚を許さないはずがないと思っていたらしく俺の気持ちも知らず終始ふわふわした笑顔を見せていた。

無事に結婚の許しをもらい皆で二ノ宮の父のお気に入りの豆大福を食べていると、水音が「お茶のお代わり淹れてくるね」と立ち上がりキッチンに姿を消した。

それを見送ると二ノ宮の母が笑顔で「本当によかったわぁ」と口を開いた。

「ハル君なかなか帰ってこないし、大学時代から噂のあった同級生の女医さんと懇意にしてるなんて話が海の向こうから聞こえてきたものだから、主人のご機嫌が悪くなっちゃって大変だったのよ~。大江医療機器の社長と意気投合していきなりお見合いだなんて言いだすし」

二ノ宮の母は笑い話のように語っているけれど、ハルはお腹の底から身体が冷えた。
想像通り、二ノ宮の父は水音が大江の御曹司を気に入ればそのまま婚姻させてもいいと思っていたに違いない。
俺がなかなか結果を出せずにいたから痺れを切らせたのか、見放されるところだったのか。

「いろいろと申し訳ありません」
義妹のことは誤解だが、自分の不甲斐なさが身に染みて二人に頭を下げた。

「いや、わたしもあの時期に試すようなことをしてすまなかったね。もう少し待てばよかったのだけど、ちょっと不穏な話も耳にしたものだから」

二ノ宮の父が苦笑している。

「治臣くんが水音のことどう思っているのかってことだけじゃなくこれからどうしたいかってこともわからなかったからね。外堀埋められても動けなくなることはないだろうけど、動きにくくなることは間違いないし」

「外堀ですか?」
何の外堀なのかわからず首をかしげると二ノ宮の母も同様に首をかしげて二ノ宮の父の顔を見つめている。
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