ボードウォークの恋人たち


ーーー昼休みの社食でなぜか私は内科系スタッフの女性たちに囲まれていた。

「水ちゃん、聞いたわよー、いつから婚約してたの?」

は?

「婚約者さん、ずいぶんとイケメンね!今までどうやって隠してたのよ」

「恋人じゃなくて婚約者なんでしょ。いつ結婚するの?」

「水ちゃんったら水臭いわね。水だけに」

最後のひと言は置いとくとして、何の話?
思わず首をかしげてしまった。

そんな話私も知りませんけど。
恋人がいないのにどうやって婚約するんだろう。
もちろん結婚も。

一昨日お見合いした大江さんのことなら婚約者じゃないし。

ここのスタッフの誰かにお見合いの話が漏れたのか。
大江さんは大江医療機器のご長男だからここの病院とも関係があるし、そのつながりで周囲に知られてしまっている可能性もある。

「今のところ婚約も結婚もこれっぽっちも予定はありませんけど」

ええーっとお姉さまたちから声が上がる。嬉しそうな声だったり非難しているような声だったり。
うーん、意味がわからん。


「二ノ宮さんったらあのイケメンが恋人でも平静でいられるなんてさすがお嬢さまね」

外科病棟の有名な肉食ナース、佐脇響さんが微妙にディスってきた。
私が“お嬢様”ってことは違いないですけど。確かにこの二ノ宮グループの娘だしね。

でも、私って結構普通ですよ?
持っている洋服も靴もバッグもお化粧品も自分のお給料から買っているからね、世間一般の基準から外れるような贅沢品ではないし。

アパートの家賃だって自分で払ってますよ?
言ってもしょうがないから言わないけど。

ただお見合い相手の大江さんはイケメンだったからこれも間違ってない。

・・・ということは何も反論できないってことかなぁ。
でも、大江さんは恋人じゃないからこれは否定しておかないと。

< 24 / 189 >

この作品をシェア

pagetop