ボードウォークの恋人たち
ーーーそれから”終わったらさっさと着替えてハルを置いてホテルから帰った私”の話は光のように早く病院内を駆け巡ったーーー


「ううっ、どうして誰も私の話を聞いてくれないの？」

ナースステーションで休憩時間。私は大テーブルに突っ伏していた。

「そりゃあ、あんたの惚気話なんて誰も聞きたくないからでしょうが」

私の目の前にコーヒーを置きながら冷たい返事をしてくれたのは３つ上の先輩ナース田原望海（のぞみ）さんだ。

「聞いてくださいよぉ」

半泣きの私に「だってあんたたち社食で公開イチャイチャしたんでしょう。それ見た後で何を信じろと？」
またもド正論。

そうなんだよ、あのバカがあの場で反論しようとした私をぎゅっと抱き寄せてですねぇ、耳に囁いてきたんですよ。
「俺は嘘ついてないぞ」と。

おまけに離れるときに私の頭のてっぺんにキスを落としていったんですわ。
もちろん、またもや周りは黄色い歓声。

顔から火が出そうになって逃げました。
ええ、私は皆さんに否定もできずにダッシュで逃げました。

そして翌日から三日間夜勤業務でね。出会うのはごく少数の夜勤のメンバーだけってわけで、わずかな周囲以外にはなんにも否定できていないというこの状況。

すれ違ったスタッフに「おめでとう」と言われて「違いますっ」と否定しているけど、何がどう違うかなんていちいち説明できないし。

きいいいいいいいいー
夜中にナースステーションで叫ぶわけにもいかず心の中で絶叫した。

そんな私に望海さんは「私は愛情表現豊かな恋人って羨ましいけどぉ」と言っていた。

だいたいハルは私の恋人じゃないし。
もはや誰も信じてくれないけど。

多分私は玩具にされている。久しぶりに会った親戚の女の子のようなポジションで。誰かと代われるものなら代わりたい。
きいいいー、くやしいっ！

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