ボードウォークの恋人たち
スマホを手に取り母に電話をすると2コールで繋がった。

「お母さん!何なの、コレ」

「あら昨日の夜中にかけてくると思ってたけど、意外に遅かったわねぇ。もしかして今頃気が付いたとか?あはははー」

「”あはははー”じゃないし。いったいどういう事なの。急に引越しなんて」

電話の向こうの陽気な母に殺意が湧いてくる。

「あら、あなた知らないの?一昨日近くで殺人事件があったでしょ?その捜査で分かったんだけど、その辺って最近物騒なんですってね。空き巣ならまだしも押し込み強盗とか痴漢、下着泥棒、何だか壁を伝って4階の女性の部屋に侵入した事件もあったって。もうお母さん心配で。水音のそのアパート、防犯設備あまりよくないし」

そこまで聞くと母の言うこともわかる。

自分のお給料でやっていくためにはこの程度の家賃のところでないと無理だったのだ。

ナース1年目の給料はたいして良くない。都内で一人暮らしをするためには必然的にどこかで妥協する必要があった。両親や兄は反対したけど私の場合、妥協したのは部屋だった。

「だから、引越ししてね」

「そんな急に・・・」

「いいから。もう決めちゃったもん」
もんじゃない、もんって何だ、50代のオバサンがもんって。

「だからどうして勝手に決めるかなあ。私の意見はどうなるの。家賃だってーーー」

「あら、新しいマンションに決めたのハル君だもん。お家賃はハル君が出してくれるって。今のハル君のお給料ならあんな家賃どうってことないわよ?それにハル君なら水音の好み熟知しているから間取りもインテリアも間違いないでしょ」

待って、どうしてそこで、何でハルの名前が。
意味不明なんですけどっ。
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