ボードウォークの恋人たち
「水音、こっち」
ハルに案内された長い廊下の先にあったリビングルームは全面が大きな窓で圧倒されてしまう。
うわ、マジで凄い。
これが高級タワーマンションってやつか。

高層マンションとは無縁の生活をしてきた私には見慣れない景色が広がっていて私は何度も瞬きをしてしまった。
足、すくみそう。

「水音、こっちで食べる?一応ダイニングの方に準備してあるけど、こっちに持ってきて食べてもいいよ?」

景色に見惚れていると思ったのかハルが気を遣って声をかけてきた。

私は黙って首を振る。
ハルに教えてもらった洗面所で手を洗う。
なるべく周りを見ないようにしていたけれど、最先端仕様になっているらしい機能に驚きと興味が止まらない。洗面ボウルは2つ並んでいて鏡は五面になっている。もちろんライトも水栓もオートだし。

もしかして、やっぱりだけど、ここめちゃくちゃお高い家賃だよね。
ハルってこんなすごい所に住んでいるんだ。
医者のお給料っていったいどうなっているんだろう。

いやいや、今は考えない。
私は頭をふるふると振ると大きく息を吐いた。

とにかく朝ごはんのパンケーキを頂いて血糖値を上げてから考えよう。
昨日の夕方から何も食べていないからかれこれ20時間近く水分しかとっていない。こんな時に何かを判断するのは危険というものだ。

ハルのいるキッチンに入ると「もうちょっとでできるからそれまでいろいろな部屋を見て来たら?」と魔王の笑みでのたまわった。

「いい。ここにいる」
「そう?じゃそこ座って」

「はい」こくりと頷きハルに指示されたダイニングテーブルの席に座る。

うわ、ダイニングチェアーも座り心地がいい。腰が適度にサポートされて身体がフィットする。これまた高そうだ。
このテーブルだって。まさか無垢の一枚板なんじゃ・・・。

「・・・ここって分譲?賃貸?」

「それ聞きたい?」魔王が笑みを深くする。

「や、やっぱやめとく。聞かなくていい」

ブンブンと頭を横に振った。危ない、危ない、これたぶん聞いちゃダメなヤツだ。聞いたら多分帰れなくなるんじゃないかって気がする。何となく。
私には関係ない、関係ない。
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