ボードウォークの恋人たち
それにしても美味しい。
これってホットケーキミックスの粉じゃないのかもと気が付いた。

昔私がハルに作ってあげたものは当然市販のホットケーキミックス粉を使ったものだった。
まだ小学生だったし。
あんなものを美味しいって言って食べてくれたハルを思い出して微妙な気持ちになる。

小学生の私に美味しくないとは言えなかったんだろうなぁ。妹のようにかわいがってもらっていたし。根は優しい人なのだ。

ハルの作ってくれた大きめのパンケーキ、たっぷりの生クリームとフルーツに私のお腹は満足してくれてどうやら脳にもブドウ糖が届いたようだ。

よくよく考えてみたら・・・
ハルが中学生だった頃から彼のことはよく知っている。
うん、よく知っているんだ。どうして今まで気が付かなかったんだろう。

中高一貫校でずっと兄と一緒に生徒会の役員をしていて。ヘタしたら会長をしていた兄よりも副会長のハルの方が有名人だったんじゃないかな。国宝級のイケメンだったし勉強もよくお出来になっていたし。

この人、なんでも器用にこなすパーフェクトイケメンだった。
勉強も運動も、芸術的センスもあって。唯一の汚点は女癖ってことだろう。
女癖の話はちょっと横に置いておくとしてーーー私が気が付いたのはハルが”何でも器用にこなす男だった”ってこと。

よく考えてみれば何でもできるこの魔王ハル様が、家庭科の調理実習くらいお茶の子さいさいだったはずの彼が、目玉焼きなんてものを作れないはずがないし、パンケーキが作れないはずがない。
できないんじゃなくて単にやらなかっただけだ。

「おいしいよ、水音のパンケーキは今まで食べた中で一番おいしい」って小学生女子のへたくそなパンケーキにお世辞を言った高校生のハル。
泊まらせてもらっている家の娘をちょっと褒めてやりたかったんだろうか。
それにしては何度か作ってとねだられたような気がするけど。

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