ボードウォークの恋人たち
「ご馳走さまでした」

両手を合わせて一礼すると、ハルが立ち上がった。

「紅茶のお代わりは?コーヒーがいいならコーヒーでも淹れるか?」

「ううん、もういい。ありがとう。パンケーキとっても美味しかった。片付けは自分でやるからハルはお茶飲んでて」

立ち上がって腕まくりすると、「いいのに」とハルが苦笑する。

「食べたのは私だし」ハルを押しとどめてシンクの前に立った。

・・・やっぱりキッチンも最先端仕様。
上品な大理石のワークトップにタッチレスの水栓、シャワーとの切り替えもタッチレスとか信じられない。

コンロや換気扇もじっくりと見たいところだけれどそこはガマン。
なぜなら、ハルが食器を洗っている私をガン見しているから。

「なに」
不機嫌さを隠さずに声を出すとハルは困ったようにでも嬉しそうな顔をした。

「ここに水音がいるんだなあと思ってさ」

はあ?
「ハルとお母さんがそう仕向けたんでしょ。私は今日は夜勤明けでゆっくり寝たかったのに」
出来ることなら朝ご飯後にもうひと眠りしようと思っていた。

「そうだよな、ごめん」

「謝るんだったらこんなことしないでよ。とにかく私の荷物を返してもらうから」
片付けが終わった私はハルの前でさあ早く返せとばかり仁王立ちした。

「ダメ。返さない。水音も荷物も」
口をへの字にしてそう言うと、魔王ハルは私に背を向けてリビングに向かってしまった。

ダメじゃないでしょ、ダメじゃ。
「ハル!」

その背中を追いかけてリビングに行くと、ハルは「座って」とソファーを指差した。
「座らない。私の荷物の話、ちゃんとして」

「水音」ハルははぁっと大きくため息をついた。

「俺さ、6年振りに日本に帰ってきたんだよね。水音は興味ないかもしれないけど」
私を責めるような言い方だ。

「知ってる。どこで何をしてたのかは全く知らないけど」

「他になんか言い方ないの」

ぎろりと睨まれ、ああと気が付いた。

「”お帰りなさい”ハル」

「うん。ただいま水音」
一転して魔王ハルは笑顔になった。

うっ、神々しい程のイケメンの反則技、輝くような笑顔攻撃じゃん。まさかハルは私にお帰りと行って欲しかったとか?


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