ボードウォークの恋人たち



『おはよう、水音。何か困ったことはなかったか?』

当直明けのハルが電話をくれた。
そういう気遣いができるからハルは見た目だけじゃなくて女の子にモテるんだろう。

「おはよう。お疲れさま。私は大丈夫。ハルの方は?」

『俺も大丈夫だ。こっちは今からふたば台病院に出勤するところ。今夜水音は準夜勤だったよな」

「うん」

『昨日も言ったけど、何か困ったことがあればメールを入れること。わかった?』

「うん。でも今のところ何もないから大丈夫。それよりハル、仮眠は取れたの?」

『ああ、少しね。いつものことだから大丈夫さ。じゃあ時間だから切るぞ』

「わかった、行ってらっしゃい」

『・・・・』

「ハル?」
急に無言になったハル。
昨夜は大変だったんじゃないんだろうか。少しの仮眠で今日も1日勤務だなんて臨床のドクターの勤務は本当に過酷だ。

「やっぱ疲れてるんでしょ?」

『いや、何でもない。水音も夜勤頑張れ』

今度はすぐに返事が戻ってきてホッとした。どんな当直勤務内容なのかは今度顔を合わせた時に聞いてみよう。医師の勤務は過酷だ、体調管理はしっかりして欲しい。

「うん、ありがとう。じゃあね」

電話を切ってもまだ耳の奥にハルの声が残っている気がする。

水音も夜勤がんばれ、か。

ハルの声は昔より少し低くなったみたいだ。あれから6年たっているのだから当たり前かもしれないけれど。ハルは今年31才になるのか。そりゃあ大人だ。十二分に大人だ。

私と同居を提案してきたのだから独身なんだろうけど。
独身だとしてもあの女癖の悪いハルのことだから周りに女の人がいるんだろうなぁ。もしかしたら複数人の。

・・・やっぱりハルとの同居は無理かも。
私は潔癖とは言わないけれど、乱れた性生活を送る人とのハウスシェアとはいえ一緒に暮らすのは無理がある。ここに連れ込むことはないと思うし、ハルと顔を合わせる時間だって少ないだろうだけど、それでも生理的に無理だ。

親友の詩音のところも先月から恋人と同棲を始めた兄のところにも転がり込むわけにもいかないし実家にも帰れない。
やっぱりアパートを探さないと。それもできるだけ早く。

出勤まではまだ時間がある、ネットで検索してみるかーーー。

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