ボードウォークの恋人たち
「私に恋人なんていませんケドね」

否定すると「あれ?でも・・・」と福岡先生が首を傾げる。

ハイ、もはや恒例の私とハルのことですよね。
同じ病院にいるのだから福岡先生の耳にも二ノ宮家の娘と新任ドクターの噂話が入っていてもおかしくはない。

「あのですね、舘野先生は私の兄・・・んんん?」言いかけた私の目に飛び込んできたのは颯爽と白衣を翻してこのナースステーションに入ってきたハルの姿だった。

「ハル!・・・っとと、えーっと舘野センセイ。こんな時間にどうされたんですか」

噂していた相手がいきなり現れて福岡先生も目を丸くしている。
私だってかなりびっくりだ。
当直明けなんだから仕事が終わってさっさと帰ったと思っていたし。

「着任したばかりだからいろいろとやらなきゃならないことばかりでね。片付けていたらこんな時間になってしまったってわけ。で、せっかくだから帰る前に可愛い婚約者の顔を見てから帰ろうと思ってたんだけど。もしかして邪魔だった?」

福岡先生と私の顔を見比べるようにするハルの黒い笑みにクラっとした。

「もちろん邪魔なはずはありません。先生もコーヒーいかがですか?」
奥から素晴らしいタイミングで望海さんがコーヒーを手に現れ満面の笑みでハルを誘っている。

望海さんアレ絶対に面白がってる。

「ハル、じゃなくて舘野センセイ。お疲れでしょうからもうお帰りになったらいかがですか?」
私の勧めにハルは首を横に振った。

「婚約者の同僚にも挨拶をするチャンスだからね。俺もコーヒー頂こうかな」

爽やか笑顔全開のハルに「どうぞ」と望海さんがちょっと頬を赤らめてコーヒーを差し出している。

「ありがとう」と受け取ったハルに「こちらもよかったら」と福岡先生がお菓子を勧めている。
いや、福岡先生まで頬をほんのり赤くしてどうするんですかっ。

「今ちょうど二ノ宮さんたち準夜のナースとコーヒーブレイクをしていたんですよ。この5B病棟のナースは浜さんをはじめみんな性格がよくて癒されますから。だから二ノ宮さんのハートを射止めた舘野先生は妬まれるかもしれませんよ。覚悟してくださいね」

魔王なハルとは違う表裏のなさそうなまっさらな笑顔で福岡先生がハルに忠告している。

「わかりました。覚悟しておきます」
真面目な顔で返すハルに呆れてしまう。どんな三文芝居だ。
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