ボードウォークの恋人たち
深夜、ハルのマンションにそーっと帰宅すると、マンションの中は静まり返っていた。
玄関にハルの靴はあったから帰宅して既に寝ているのだと思う。
廊下はセンサーライトが灯り足元の心配はないけれど、廊下の先のリビングはほんのりと暖房とダウンライトが点けてくれてありハルの気遣いを感じた。
人の気配のある家。ホッとしてふうっと身体から力が抜けていく。
なんか、いいな。安心する。
そしてキッチンには本当にリゾットが置いてあった。
まだ少し温かい。
”お腹がすいたら食べるように、食べなければ冷蔵庫に”と書かれたメモが置いてあり、私は少し迷って食べることに決めた。
こんな時間に食べるのはどうかと思うけれど、急いでシャワーを浴び髪をタオルドライしながらリゾットを口に運ぶ。
「おいし・・」小さな呟きが漏れてしまった。
懐かしくて、美味しい。
これは昔私がハルに作ってあげたものと同じトマトチーズ味のリゾットだ。
夜遅くまで勉強をしていた兄がカップラーメンを作ろうとしていたから私が止めてこれを作ってあげたのだった。ハルの分も。
「水音、また作って」
そう言われて仕方なく何度か作った記憶がある。もう私がハルを避けはじめていた時期だったけれど、ハルは本当に美味しそうに食べてくれた。兄はもっとガッツリ食べたいと文句を言っていたなあ。
ハル、覚えてたんだ・・・。
どうしよう。ちょっと嬉しい。
あの頃のハルを思い出して私の胸がキュンとなった。
兄のようで兄でない。ハルは確かに私の大切な人だった。
「ごちそうさまでした」私はハルの眠る部屋の方向に手を合わせた。