ボードウォークの恋人たち
ふとポケットに入れておいたスマホが振動し始めたことに気が付いた。

ちらりと表示を確認すると電話の相手は大江さんだ。

明後日の夜のお誘いで返事はもちろんOK。幸い私は明日から三日間昼間の勤務で夜は空いてる。
昨夜福岡先生から聞いたこともあって大江さんにはいろいろと聞きたいことも話したいこともある。
彼女とうまくいったのかしら。自然と口角が上がり気分もどんどん上昇してきた自分に気が付いて笑みが浮かぶ。

「明後日、楽しみにしてます」
「そうですか。よかった」
電話の向こう側からほっとしたような声がして私の笑みは更に深くなる。

時間と場所を指定されすぐに通話は終了。話は明後日ゆっくり。
大江さんに会うのが今からとても楽しみだ。

私はベンチから元気よく立ち上がると散歩を再開した。

川べりのボードウォークは近所の住民の定番お散歩コースになっているらしく、年配のご夫婦、幼児を連れたママさんやジョギングをする人、犬を連れた人や保育園のお散歩などなどなかなか賑やかだ。

不意に足元に目をやるとボードウォークの板の隙間から水面が見える。
そうか、遊歩道は川の上にあるのね。

足に力を入れてみるとまた木の軋む音がする。
ボードウォークは木の感触が足に優しいし味気ないコンクリートと違って目にも優しい。
ボートハウスを模したカフェやドッグランのスペースもあり同じ区内にいるとは思えない、何もかもがお洒落の整備されていて何もかもが私の知らない景色が広がっている。


遊歩道の先にスーパーマーケットが見えてきた。
さすがに高級住宅地にあるからなのかシックな雰囲気のお店だ。
吸い込まれるように入ってみると、派手な店内放送も購買意欲を高めるテンポのいい耳に残る音楽も流れておらずヴァイオリンの音色が小さく流れていた。

マルシェのような商品配置。
野菜やフルーツ、お肉もお魚も新鮮で濃いビタミンカラーが美味しそうに見える。
品揃えも素晴らしい。見ているだけで気分が高揚してくる。

そうだ、昨日のリゾットのお礼にハルに夕飯を作ってあげようか。

ハルの勤務が何時までなのか聞いていないから今夜の夕飯が必要なのかはわからない。
でも、いらなかったら明日の朝私が食べればいいのだし。

うん、そうだ、そうしよう。
冷めても大丈夫なものがいいけど、どうしようかなーーー

ハルの好きなものって何だっけ。
それからいつの間にか私の頭の中は二人分の夕飯の支度をすることでいっぱいになっていった。




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