ボードウォークの恋人たち
夕方ハルから電話がかかってきた。

「水音、今夜の夕食は一緒に外で食べないか?今日はもう少しで帰れそうなんだ」

思いがけない夕食の誘いだ。
ここのマンションに居候して一週間、私とハルはすれ違い生活であれから一度も一緒の時間に食事をしていなかった。

「ハル、私今ご飯作ってるの。ハルがよければ帰ってきてうちで食べて」

「え?作ってくれてんの?マジか。ありがとう、すぐ帰る」

ハルは嬉しそうな声を出しすぐに電話が切れた。

急いで帰って来てくれるのかな。
外食に誘われたことは嬉しかったけれど、ハルは一昨日は当直、普段の帰りも遅いらしいから仕事が終わったのなら早く帰って家でゆっくり休んで欲しいという気持ちの方が強い。

私の料理喜んでくれるといいな。
ちょっとワクワクしながら待っていると、1時間もしないうちにハルが帰ってきた。
両手にお酒のボトルを持って。

「お帰り。どうしたのハル、そんなにお酒買ってきて」

「水音はワインが苦手でカクテルが好きだって聞いたからさ。うちで作ろうかと思って」

「そんなこと誰が・・・ってまさか4B病棟のスタッフさんたち?」

私が肩をすくめると、ハルはにやにやとした。

「酔うとずいぶん可愛いらしいな、水音。俺も成人した水音と一緒にアルコールを飲むのを楽しみにしてたんだ。ちょっと付き合えよ」

「誰から何を聞いたのか知らないけど可愛くはないよ、変な期待はしないで」
つんっと口を尖らせた。

そうなのだ。私は昨年の病棟忘年会でちょっと飲みすぎた。

その日は寝不足だったこともあり、すぐに酔いが回って気分がよくなり、ずいぶんと調子に乗っていたらしい。病棟の同期達とアイドルグループの曲をノリノリで歌って踊ったらしいのだ。らしいってところがポイントで、実はほとんど覚えていない。

「酔っぱらいの歌、期待しているから」
「歌わないし」
笑うハルの背中を押して入浴を勧め私は夕食の仕上げに入った。


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