ボードウォークの恋人たち
ハルはバースプーンやメジャーカップ、シェイカーまで出してきた。
あまりにも本格的なので驚いてしまった私に「昔から凝り性だっただろ」と照れくさそうに笑っている。

私はギムレット、ハルはジントニックで再び乾杯。

「そうだ、成人おめでとう、水音」
「4年遅れだよ、ありがとう」
とっくに成人してるわというささやかな嫌味を返しておいた。


私の手の中のグラスにはきらきら輝く水滴に彩られた半透明の液体。

「美味しいね、ハルの作ったギムレット。昨日のリゾットも美味しかったし。本当にハルは何でも出来ちゃう王子様だね」

「お褒めにあずかり光栄です、お姫さま」
ハルは仰々しく胸に手を当てて頭を下げる。
私がお姫さまって似合わないーとけらけら笑うとハルも笑う。

「水音は俺のこと昔から何でもできる王子さまだって言うけど、水音だってそうだろ」

「いえいえ私はだいたい何でも標準だよ、何でもねー」

ピアノもバレエも英語も他の勉強も料理も顔もスタイルも。何もかも標準。それなりにがんばってみたけど、抜きんでるものはない。

「いや。普通でも何でもいつも真面目に全力で取り組んでたろ。そんな風に出来るって実は凄いことだから。」

どういう意味?嫌味じゃないよね?

「水音も暁人も常識ある人間で誠実だし真面目。そういうのが大人として重要なんだと思う」

「よくわからないけどありがとう。褒めてもらってる気はしないけど」

「もちろん褒めてるさ」
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