ボードウォークの恋人たち
ハルが何を言いたいのかよくわからない。
「ま、バカにされてないならいいや」

「バカになんてするか」

そう言われてもねー、何をやらせても標準以上、それどころか上位に入る才能を持ってるハルに言われても。
もうこの話はいいやとばかりにギムレットをぐいっと飲み干した。

「そうだ、ちょっと待ってろ」

何か思い出したのか、ハルは自分の部屋に入って行った。
その間に、と食べ終わったお皿をキッチンに下げ洗い物をしていると背後にハルの気配がした。
振り返ろうとした私は「そのままで」とハルに止められる。

首すじにかすかに感じる冷たい金属。
これって?

「ハタチのお祝い。遅くなってごめん」

うつ向いて胸元に目を落とすと銀色のチェーンに一粒の煌めくカラーストーン。

「こ、これ」
高そう。
ううん、すごくお高いのでは。

「本当は4年前に渡したかったけど。遅くなっても渡せてよかった」

まさかこれ、4年前に準備していたとか?

「こんな高価なものをもらっていいの?」

「もちろん。返されても困るよ。これを俺がしてたら変だろ?」

「そうかもしれないけど…ありがとう。すごく素敵」

「気に入ってくれたならよかった。今年の誕生日は残り3年分も含めてきっちりプレゼントするから期待して」

「いやいや、そんなにはもらえないから。もうこれで十分だよ」
あわあわと両手を振って遠慮させてもらう。
そんな高級なものを頂いてもお返しが出来ない。

「今まで離れてた分…」

いきなり正面からぎゅっと抱きつかれるようにハグをされ驚いている間にハルはすぐに離れていった。

「次は何にする?マティーニとか、ソルティドッグ?」

ドキっとしたのは私だけらしく、ハルは何事もなかったように平常運転に戻っている。
違和感を感じないでもないけれど、私から何か言うのも躊躇われてしまう。

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